モノクロの君に味のないスイーツを
君影 奏
序
モノローグ
明日なんて来なくていい。
昨日も今日も変わらないのだから。
どうでもよかった。すべてが。
幸福はとうに捨てていた。
HAPPY BIRTH DAY などと祝われて生まれた人は大多数だろうが、世界には望まれずにこの世に生を受けた人間もいる。
そんなことあるはずがない、人は生まれながらにして幸せだ。そうのたまう人間は頭が花畑か偽善者だろう。世界を見てみればいい。スラム街や餓死者――この国では虐待で死んでいる子どももいる。
身勝手に子供を産み、身勝手に傷つけて、捨てていく。
そんなふうに生まれた子が祝われるはずがない。
救いは、とうに捨てていた。
目が覚めると灰色の天井が目についた。ぼんやりした頭で顔を横にすると、黒っぽい鉢植えに、白く濁った小さい花が飾られていた。花の形から察するに、おそらくパンジー。
いつの間に置いたのだろう。
鼻で息を吸ったけど、部屋は相変わらず無臭。
もそもそと布団から出る。よくわからないパジャマの柄。
黒と白と灰色の、三毛猫のキャラがついた振り子時計は、七時五分を指していた。窓の外を見たら白っぽい雰囲気になっている。
たぶん朝だ……。何も変わらない。どうでもいい、朝。
この眼は猫と同じく色をもたない。ずっと昔の白黒テレビみたいに、濃淡の違いがあるだけ。しかも猫みたいに暗い所で明るくなるわけでもない。
これは呪い。
私が生きているせいで、みんなを苦しめた呪い。
だから私は、世界との繋がりを絶ち、虚無に無価値に時間が過ぎるのを待っている。
それでいい。
ううん、それさえも幸福。誰かを傷つけることもないから。生きているだけで人を不幸にするのが、私の運命だから。
――そんな日々がずっと続いていたのに、午後になって少しだけ変化があった。
お菓子を与えられた。
不思議だった。どうせ食べても意味がないのに。
反応を知りたいんだろうか? それとも何かの研究?
どうでもいい。指示されたまま、それを口にするだけ。
その日以降、お菓子は不定期に渡された。
クッキーみたいな固形物もあれば、プリンのような二色の丸い台形に滑らかなもの。
きょうはショートケーキらしきものが出てきた。
フォークで先端を削り、口に入れる。舌の上で柔らかな感触がした後、飲み込み――カランと、無感情にフォークを置いた。
一体、誰のいたずらか。いや、どうでもいいか。
好きにしたらいい。そのうち意味を失って変化もなくなる。
欠けたケーキを眺めながら茫然とする。
時が過ぎる。
無限の。
茫漠とした、変化のない、時間。
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