第29話 話し合いのような
とりあえず、外で話は出来ないだろうと家の中に入れた。二人とも見た目が不良すぎる。一人だってインパクトしかないのに、二人もいたら近所からどんな噂をされるか分からない。変なトラブルを避けるためだ。
十分な広さがあるので、二人を入れても手狭にならない。こういう時、一軒家で良かった。少し距離を置いて、向かい合って話をすることが出来る。
家の中に入ってから、重苦しい緊張が漂っている。誰も何も言わない。しかし睨み合ってはいた。まだ喧嘩をしていないのは、説明を待っているからだろう。その内容によっては、すぐにでも喧嘩が始まる体勢ではいる。拳でしか語り合えない性格なのだ。物騒な男達である。
「えーっと、何か飲むか?」
空気が重すぎて聞いたが、二人は首を横に振った。
「そんなことよりも早く話をしよう」
「そうだ」
時間稼ぎも出来なかった。俺の家であるはずなのに、会話の主導権も握られている。座れと促されて、俺は渋々座った。二方向からの視線が痛い。
そうなるのも当然だが、このままどこかへ行きたい気分だった。
「えーっと、二人が知りたいのは……お互いがここにいる理由なんだよな?」
むしろ、それ以外の理由はないか。縄張りに侵入されたと、そういった感じで怒っている。そもそもは俺の家なので、二人の縄張りでもないのだが。
「こいつと知り合いなのか?」
太一が玲那を睨みつけたまま聞いてくる。ノーという答えを言えと圧を感じたが、俺ではなく玲那が返した。
「そう。知り合いよりも、もーっと深い関係だけどね」
火に油を注ぎまくっている。挑発するように、馬鹿にした表情まで浮かべていた。
「この家にだって、もう何度も来ているから」
「……家にまで入れたのか」
まるで裏切られたかのように見てくるが、別に俺の交友関係に口出しする権限は無いはずだ。どこの誰を入れようと自由なはずである。
しかし、何故か悪者になったみたいな居心地の悪さだった。
「俺だって、俺だって何度もここに来ている。家族ぐるみの付き合いだ」
それは全くの嘘ではない。距離を置いている玲那とは違って、太一は弟に懐かれている。
もう何度も遊んでいる点を考えれば、玲那よりも親しいぐらいだ。
「へえ……家族ぐるみの」
そこで、どうして浮気したみたいな目を向けてくる。太一の方が玲那よりも知り合うのが早かったし、弟が懐いているから家に入れるにも当たり前のことだ。それを責められても困る。
二人のマウントの取り合いのせいで、俺が針のむしろ状態だった。
「だから、たまにいけすかない臭いがしていたんだな。ようやく分かった」
「それは、こっちのセリフなんだけど」
「お前調子乗ってるんじゃねえよ。どうせ、無理やり入ったんだろう」
「はあ? お前馬鹿にしてるの?」
逆に仲良くなれそうな気がするが、それを言っても否定されるだけなので様子を見守る。話し合いというよりは口喧嘩だし、俺がいなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。
このままだと言い争いは平行線だ。二人とも、絶対に引く気は無い。排除するまで終わらない空気だった。
これは、どうすればいい形で収まるだろうか。俺は考えに考えた。先ほどもたくさん考えたのに、これ以上頭を使ったらパンクしてしまう。しかし、きちんと解決しておかなければ後々面倒なことになる。そちらの方が、労力がかかりそうだ。
子供の喧嘩にしか見えなくなってきた。全く。もう少し大人にならないものか。俺にも原因があるとはいえ、二人がもう少し大人になってくれれば解決する話だ。
完全に考えるのが面倒くさくなって、俺は勢いよくテーブルを叩いた。かなり感情がのってしまったらしく、予想していた以上に大きな音が鳴った。そのおかげで、注目が集まったからよしとしよう。
「お前ら……いい加減にしろ」
言い訳をさせてもらうとするならば、今日の俺は色々ありすぎて疲れていたのだ。もう考える力も無くなり、弟を迎えに行く時間も迫っていた。その焦りもあった。
俺が怒っているのが伝わったのか、二人は顔を青ざめさせている。声も出ないようで、回復する前に畳み掛けることにした。
「さっきから聞いていれば、随分と勝手なことを言ってくれるな。ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるさいんだよ」
あまりにうるさすぎて、頭が痛くなってきそうだ。静かな怒りを出していれば、泣きそうな顔でまず太一が謝ってくる。
「わ、悪かった」
「ご、ごめんね?」
続けて玲那が謝ってきた。もっと開き直るかと思っていた。もしもそうしていたら、問答無用で叩き出していただろうが。
「本当に悪いと思っているのか?」
尋ねれば、勢いよく首を上下に振る。頭がもげそうなぐらいに。
「それなら、どっちが先に仲良くなろうが、家に来ようが文句は無いよな?」
「そ、それは」
「えっと」
「無いよな?」
「無い!」
「無いよ!」
無理やり認めさせた感じはあるが、言質はとったからこっちのものだ。もう文句は言わせない。
俺は時間を確認して、弟を迎えに行くことにする。
「なあ、お前らも来るか?」
主語がないから、何の話か分からなかったはずなのに、二人は頭を縦に振った。
まあ、弟も人数が多い方が嬉しいだろう。たぶん。
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