第68話 悪役とおっぱいぱい①
「ほらほら、笠島。もっと速く進んで」
「………へいへい」
俺は今、何をしているかというと……ユニコーンの浮き輪みたいなのに乗っている、りいなを引っ張っていた。もちろん引っ張るのは紐。水着の紐ではなく、浮き輪に付いている紐である。
ったく、こいつ……俺に暇つぶしに付き合わせるじゃなくて、こき使うつもりじゃないか?
りいなを1人にしたらナンパされるし、仕方なく指示に従うことにしたのだけど。
「笠島は便利だね」
「そーですか」
「笠島がいるだけでみんなそっぽを向くし」
試しに近くにいた男2人を見てみると、
「あの子おっぱいデケっ……ッ! やべっ強面の奴がこっち見たっ!」
「アイツこえぇ……。あの子のボディーガードかな……」
「もうあの子のおっぱい見れないな……」
「ああ、おっぱいが見れないな……」
「………。なるほどねぇ……」
ビキニからこぼれ落ちそうな、ビーチボールに負けない、りいなの巨乳より俺の強面顔の方が怖いらしい。
顔を動かすだけで主に男性客が離れていく気がするわ。
「それにしてもさぁ、この巨乳。いつも見られている気がするけど……そんなにおっぱいっていいものなの?」
「………」
俺は前を向いているため、後ろのりいなが何をしているか分からないが……分からないが、自分の胸を持ち上げてユッサユッサさせている気はする。
「私、谷間には小さなホクロがあるんだけどさぁ」
「「……………(ゴクリッ)」」
「…………」
なんか周りから喉を鳴らす音がするのだが。
「胸なんて見られても減らないし、結局はこっちが視線に慣れるしかないけどさぁ。おっぱいってそんなにいいの? ねぇ、笠島」
「……俺に振るなよ、その話題……」
男はみんなおっぱいが好きって聞くけどさ。
おっぱい……おっぱいねぇ……。
『洗い加減はどうですか?』
むに、むにゅ……。
『お背中、おおきいですね。逞しいです』
むにゅぅぅ……。
「いやいやいや!!」
「?」
なんでここで雲雀が出るんだよっ。確かにあの時は、背中におっぱいが当たったけどっ。見てはいないじゃないか。感じただけで! ………あれ? おっぱいを感じる方がむしろやばいのか?
「………。笠島はおっぱい大きい方がいいの?」
「いや、話を深めようとするな!」
俺さっきの質問も何も答えてないのな!
前を向いているから分からないが、りいなは一体どんな顔をして俺に質問を投げてるんだ! 俺に聞いたって面白くないだろっ。
こんな時に田嶋がいれば、馬鹿正直に答えてくれて助かるんだけど……。てか、田島は本当にどこに行ったんだよ。
「つか、そういうのは結斗に聞けばいいんじゃなの? 一応好みの部類に入るだろ」
「ゆいくんはどっちもというか、大切なのは胸じゃなくて人柄だよ、っていうタイプだから」
「あー、言いそう」
結斗は優しいからな。人を見た目じゃ決めつけないタイプだし。
やっぱり、りいなと話すことと言ったら結斗のことで、その方が話が続くな。
「まひろさんとの交代まではあと何分なんだ?」
「えーと……あと30分」
「まだ結構時間あるなぁ……」
30分後といえば、ちょうどお昼時か。
「お昼を食べに一回みんなで集まるらしいよ」
「了解。おお、その情報は大事だわ」
俺が海パンを探している時に話したことだろう。
そんなこんなで流れるプールを一周した。りいなにあとどのくらい紐を引っ張ればいいか、聞こうとした時だった。
「………その水着。ここで買ったものじゃないよね」
「え?」
りいなが不意にそんなことを聞いてきた。
「よく分かった。そうだ」
「誰かに持ってきてもらったんだ」
「そうそう」
「……それは、あのメイドさん?」
「全問正解だなっ」
鋭すぎるな。まるで見ていたようだ。やっぱり女子ってそういうのすぐわかるのか?
「メイドさんねぇ。……ふーん」
「うちのメイドになんか興味でもあるのか?」
「……興味がないって言ったら嘘になる」
「じゃあ興味があるって言えよ」
雲雀は見た目だけで言えば、謎めいているからな。話せば、下ネタなんかもバンバン言う面白いメイドなんだけど。
「別に、ちょっとだけ興味が出てきただけだから。メイドさんにも。そして……。………」
「ん?」
言葉が止まったので、ここで初めてりいなの方を見た。やっぱり目が行くのは、その豊満な乳。次に顔を見れば……りいなの表情は少し曇っていた様子で。
「笠島。もう紐は引っ張らなくていいよ。ありがと」
「お、おう」
りいなが浮き輪から降りて、プールの水の中に浸かる。その時、胸が水飛沫を上げて水の中に消えていったのは中々迫力があった。
りいなが自ら降りたし、俺のお勤めはここで終わりかなぁ。
「笠島。次はあそこに行くよ」
「ええ。まだ俺付き合うのかよ……って。えっ。あそこ?」
りいなが指差した場所は………。
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