第55話 メイドの隣は……
「これがベンツかぁ。カッコいい〜!」
駐車場に行けば、送迎用の黒塗りのベンツ。
結斗がキラキラした目で見ていた。
最近こそベンツだが、前はリムジンだったからなぁ。目立ちすぎて慣れなかったが、ベンツも高級車なんだよなぁ。
お金持ち暮らしに慣れてきた俺だが、幸い金銭感覚は平常である。
「本当に送ってもらってもいいのですか?」
「もちろんでございます」
「ベンツに乗れるって機会って滅多にないよねっ」
「ゆいくんがここまで乗りたそうにしてるし……ご好意に甘える? お姉ちゃん?」
「そうだね。雲雀さん。私たち3人を自宅付近まで乗せていただいてもいいでしょうか?」
「はい。かしこまりました」
そう言うと、雲雀が慣れたように後部座席のドアを開ける。
「ふぁ! ドラマとかで見るやつだぁ……」
「後部座席には3人までとなっております」
「3人かぁ……」
俺合わせて4人。誰かが前の座席に座らないといけない。もし、後部座席に乗れば美人姉妹と一緒……。
「じゃあ僕が——」
「俺が雲雀の隣にいくっ!」
優しい結斗が自分が前に行くと言うことを見越して、俺も即座に言う。声が被ってしまったが、ここは譲れない。
つか、勢い余って喋ったからなんて言ったがわからないけど……まあいっか。
「結斗はベンツに乗るの初めてだろ。後ろの広い方で堪能した方がいいんじゃないか? 俺はほぼ毎日乗ってるしな」
「そっかぁ。じゃあ後ろに乗るよ! ありがとうね、雄二くんっ」
「おう」
後部座席にまひろ、結斗、りいなの順に乗っていく。結斗は相変わらず美人姉妹に挟まれるんだなぁ。
「雄二様もどうぞ」
「おう、ありがとう」
前のドアを開いてくれて、俺も乗り込んだ。
全員ベンツに乗り込みさぁ、出発。移動時間、どんな会話が生まれるだと思っていたが……。
「………寝てるだと」
5分後。ミラーで見ると、3人とも目を閉じて小さく寝息を立てていた。
「ベンツすげぇ……」
乗り心地の良さもあるが、気付かぬうちに疲れが溜まっていたのだろう。
特に、まひろさんはよく告白されるし上手く断るのにエネルギーを使ってそうだ。
そういや、俺も爆睡したことあったな。雲雀にショッピングモール連れて行かれた時。あの時は、目が覚めたらどこかの駐車場で一瞬ビビったよなー。
「指定された自宅付近……コンビニの場所は分かりますし、そっとしておきましょう」
「だな。俺は雲雀の話し相手になりましょうか?」
「笑ってしまったら事故を起こしてしまいそうなので大丈夫です」
「そんな面白い話しねぇよ!?」
おっと。つい大きな声でツッコんでしまった……。静かに……。
「雄二様はお隣にいればいいですから」
「そうか」
まあ運転の邪魔しちゃ悪いし、隣で黙っとくか。
結斗と初めて会ったコンビニ付近で車を止めた。
「ふぁ、寝ちゃった……」
「みんな、ぐっすりだったな」
「送ってくださりありがとうございました。ここからは徒歩ですぐ家に着くので」
まひろが代表してお礼を言い、軽くお辞儀。手を振って別れた。
「雲雀、ちょっとコンビニ行ってきて良いか? すぐ戻る」
「分かりました」
コンビニに入り、お目当てのコーヒーを買う。なんだが喉が渇いて家まで待てなかった。
購入して、出口に向かおうとしたが……窓から帰ったはずの結斗が、雲雀に話しかけている姿が見えた。
「おっ、結斗が笑顔になった」
何やら嬉しそう。
俺が出てきて、会話が途切れるのも悪いし、話が終わるまで待つか。
結斗が再び去ったところで、コンビニを出た。
「結斗、忘れ物か?」
「いえ。ただの雑談です」
「そっか」
雲雀がそう言うなら、そうなのだろう。深入りはしない。
「………」
「ん? なに? 俺の顔になんか付いてる?」
「なんでもありません」
えっ、そこは気になるのだが!?
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