第43話 悪役、主人公。お隣スワップ
迎えた勉強会当日。
高層マンションの入り口で待っていると、ぞろぞろとみんなが来た。
「おう。おはよう、みんな」
「おはよう雄二くん! ここが雄二くんの家かぁ! おっきいぃ〜〜」
「お金持ちとは聞いていたけど……随分といいマンションに住んでいるんだね」
「ま、まあな」
俺も住み慣れたのは数ヶ月前だけど。
やはり俺の家で勉強会となると、必然的にこの高層マンションのことで驚くよな。
「いらっしゃいませ、皆様」
広々としたリビングへ入ると、待ち構えていたようにメイド服姿の雲雀がお出迎え。
みんな、雲雀に驚いて言葉を失っているようだ。俺も初めて会った時は、美人メイド……という属性に圧倒されたよなぁ……。
「おーい、お前ら。ボーとしてないで早く荷物下ろして勉強しようぜ」
ちなみに勉強会はリビングでやるつもりだ。
俺の部屋でも十分収まる人数だったが、トイレや外出したい時にリビングの方が何かと便利と思ったから。
軽く雑談を交わしながら、中央部に敷かれた絨毯の真ん中あたり、テーブルの上にそれぞれ教科書やノートを広げ、
「ポテチとコーラも持ってきたぞ! これがないと勉強にならないだろう!」
田嶋がニシシ、と笑い自慢げテーブルの上に広げる。隣の里島は呆れている。
「こぼすなよ」
「そんなヘマはしないってばっ」
「……ほんとうかぁ?」
コーラとかこぼされたら……たまったもんじゃない。まあ俺も前世では友達とお菓子やら広げながら勉強していたからポテトとコーラを用意するのは分かるけど。
「……やばくない?」
「あはは……田嶋くん……」
なにやらりいなと結斗がヒソヒソ話している。まるで田嶋が何かの地雷を踏んだような雰囲気で……。
「えと……君は勉強しにきたんだよね?」
「もちろんだよ! まひろさ……ん……?」
笑顔で答えた田嶋だったが、まひろの顔を見るなり……笑顔が消えた。それどころかなんか怯えてる……?
俺の席はまひろの背後になるので顔は見えいが……きっと物凄い怖い笑みに違いない。後ろ姿からも何か黒いものを感じる……。
「勉強中にお菓子やジュースは必要かい? テスト中はお菓子やジュースを飲み食いしながら問題を解くのかい?」
「あ、いえ……」
「分かっているのなら?」
「ポテトとコーラはバッグに戻します、はい……」
田嶋が一瞬で産まれたての子鹿みたいに震えている。
ふと、隣に座る結斗が俺の耳元で
「まひろちゃん。勉強しながらの飲み食いにすごく厳しいんだぁ。先に言えば良かったね……」
「いや、田嶋は怒られた方がいいと思うし、いいぞ」
……危ねぇ。俺も追加でお菓子持ってこようとか考えていたわ。
「元々私たちの勉強会に笠島くん含める3人が参加したんだから、私たちの勉強会のスタイルに従ってもらうよ」
「お、おう。もちろんだ……」
「了解した」
「は、はひ……」
田嶋はすっかりまひろにびびっているなぁ……。勉強会の時はまひろは、某バレー漫画のコート上の王様ならぬ、勉強会の王様だな。
学年1位の勉強会……一体どんなものなのだろう。
———3時間後。
意外にもみんな勉強に集中していて……まあ勉強会なんだからそうじゃないといけないけど。
基本的に、30分解いて10分見直し。分からないところは15分で聞いて、5分の休憩の1時間セットを国語、数学、英語を勉強していた。
効率のいい勉強も捗る理由だが、一番は多分、まひろが午前の勉強時間の最後やると言った、オリジナルのテストにあるだろう。わざわざテスト範囲の中から出やすいものを絞って作ってくれた。
このテストで満点を取らないと……一生休憩はないらしい。お菓子とジュースの件からしてマジで実行する気だろう。
全員分の採点が終わったと、まひろが赤ペンのキャップを付ける。残された俺たちはごくり、固唾を飲む……。
「お疲れ様。みんな満点だったよ。午前の勉強はこれで終わりにしよう」
そう言われると、ドッと疲れたのと安堵のため息が一気に漏れた。他のやつもだ。
「あ、あ、ああ……良かったぁ……」
田嶋は表情を緩めながら、ぐでーっと机に突っ伏す。そして……真っ白に燃え尽きた。
「おい田嶋ー。午後もあるからなぁー」
まあこれで雲雀に変なことをする気力もなくなっただろう。
「雄二くんっ。教えたらすぐ解けていたね。凄いよっ」
「ふふ、そうだろう。昨日の小テストは……あれよ。たまたま不調だったのよ」
分からないところ……というか、忘れていた公式や知識を教えてもらえば徐々に思い出していき、まひろのオリジナルテストは難なく解けた。
「笠島くんはいい順位を狙えるんじゃないかな」
「俺もりいなさんみたいに通知表がそこそこ良ければいいかな」
「同じじゃないし。私はオール5狙いだもん」
「考え方は同じだろう!」
さすがにオール5は無理なことは俺も分かっているわ。
というか、りいなは相変わらず俺の時だけテンションが違うな。まあどっちの話し方でも俺はいいけど。
そんなリビングに、自室にいた雲雀がやってきた。
「皆様。ご昼食はどうなされますか?」
「ああ、昼食は……」
俺はまひろを見る。
「ご心配ありがとうございます。ですが、事前にみんなでお寿司をテイクアウトすると決めていますから大丈夫ですよ」
そう言いつつ、まひろはお金の入った封筒を雲雀に見せる。事前にみんなから1000円ずつ集めていたのだ。それに昼飯は何を食べるか、も決めた。まひろはほんとしっかりしてるよな。
「了解致しました。それでは車の方は私が出しましょう。テイクアウトしてきますので皆様はおくつろぎください」
と、雲雀と視線が合った。
俺が付き添い人ってことね。そのつもりだったけど。
「じゃあ俺は雲雀と——」
「僕、一緒に行きますよ!」
「え?」
俺よりも早く立ち上がりそう言ったのは——結斗であった。
「雄二様とお店に向かいますで大丈夫ですよ」
「雄二くんには勉強会のスペースを提供してもらっていますし、代わりに僕が行きます」
そんな気遣わなくてもいいのに、結斗はいい奴だなぁー。
しかし、美人姉妹が黙っていないだろう。恐る恐る視線を向けたが……
「いってらっしゃい結斗。気をつけるんだよ」
「ゆいくん気つけてね〜♪」
「え、行かせる!? えっ、えっ!?」
「……分かりました。では結斗様と向かいます」
「えっ、行くの!?」
俺の疑問や動揺も置いてきぼり。雲雀と結斗はリビングから出た。
「さて。結斗たちが帰ってくる間に勉強道具を片付けよう」
「お姉ちゃん私お菓子食べていい〜?」
「ご飯前なのだからほどほどにね。あと勉強道具を片付けてから」
「はぁーい」
怒る様子も嫉妬する様子もなく……結斗がいなくなっても普通に過ごしている。
「笠島くん。ボーとしないで君も片付けて」
「あ、はい」
「まあ結斗なら雲雀に変なことしないし大丈夫だよなー」
田嶋だったら全力で止めたけど。
一度、サッパリするために洗面所で顔を洗っていると、
「ねぇ」
「ん?」
タオルで顔を拭いている時、声を掛けられた。見ると、りいなが立っており、
「りいなさんも顔を洗ってサッパリしたいの? 自由に使って……」
「そうじゃない。笠島……アンタに話があるの」
「え……?」
◆
マンションから車で10分程度にある回転寿司。休日の昼時とあり、店は混雑していた。
「受け取りまでまだ時間がかかりますね」
「そうですね」
テイクアウトの注文を終えた、雲雀と結斗は店内の入り口にある、ソファの一角に座る。
「結斗様。私になにか用があるのでしょうか?」
雲雀の言葉に結斗は、
「さすがにただの付き添い……とは思いませんよね。不快にさせてしまったのならすいません」
「いえ。大丈夫です」
「それなら良かったです。では雲雀さん」
「はい」
「僕は貴方と……お話がしたいです」
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