3.悪役は振り回される

第40話 悪役は……勉強に苦戦する①

 林間学校が終わって、あっという間に一週間が経った。そろそろ6月に入りそうだ。


「ご馳走様でした。ふぅ、今日も美味かったぁ」


 雲雀が作ってくれた夕食を平らげ、腹一杯になった腹をさする。


 雲雀が食後のコーヒーを俺の前に置き、食器を片付け始める。


「お粗末でした。雄二様は食べっぷりがいいので見ていて気持ちいいです。作り甲斐があります」

「雲雀のご飯が美味しいからな。今日も白米を3杯もおかわりしたし」


 今日のメニューは生姜焼きだった。

 焼くと固くなりがちな豚ロースだが、雲雀が作ってくれた生姜焼きは、肉一枚一枚が柔らかく、トロみがついたタレにちゃんと絡まっていて食べた瞬間、笑みがこぼれたくらい絶品だった。これは白米が進みまくる。

 毎回思うが、料理の腕がマジで店で出せるレベル。


「美味しいと言ってくださるのはとても嬉しいのですが、食べる量と運動量のバランスが合っていないといつか太りますよ」

「うっす……」


 最近、地味に体重気にしてるのよ……。笠島の元のがたいが良すぎて、いつか筋肉が脂肪に代わってデブまっしぐらになるのが怖いのよ。脂肪フラグ回避したい。

 腹筋背筋腕立て……今日は多めにやろう。


「そういえばまひろさん……じゃ分からないな。同じクラスの女子が俺と雲雀の写真を撮ったらしんだけどさ」

「写真? 盗撮ですか?」

「あ、いや……説明が少し足りなかった。林間学校が終わった日。校門から出る俺と雲雀が何やら楽しそうに話していたらしく、ついつい写真を撮ったとさ。プリントアウトしたから良かったらどうぞって」


 まあ結局、盗撮に近いけど。


「一応2枚貰ったけど、雲雀はいるか?」

「私は写真があまり好きではないです。撮っても撮っても、写る自分の姿はいつでも真顔ですから」

「あ、そう……」

 

 これはあまり触れてはいけない話題だったか……。


 雲雀は感情を表にうまく出せないことで学生時代は苦労したとか、聞いたことがある。それに、遊園地に行ったとき、真顔のことで悩んでいると打ち明けてくれたしな。

 

 まひろから貰った写真を帰ってからチラッと見たが、一眼レフとあって写りは綺麗だったし、雲雀も相変わらず真顔だったけど……雰囲気はどこか楽しそうだった。

 

「まあ無理にとは言わないが……。でもさ、帰るまでが林間学校って言うじゃん。だからその写真は、俺と雲雀の林間学校の一部の思い出になる……なーんてな。あはは……」


 何を言ってるんだ俺は。雲雀は林間学校には参加してないし、そもそも写真に映ることが苦手と言っているんだ。断るに決まって……。


「では貰います」

「おお、そうか。じゃあ後から写真渡すな」

「ありがとうございます。雄二様は言葉選びがお上手ですね」

「え? ありがとう?」

「それを無自覚にやっておられるのは、なんだが……はぁ」

「えっ、なに!? 今のため息なに!? さっきの言葉選びってもしかして悪口だった!?」


 最近、表情は少しづつ読めてきたと思ったけど……雲雀の考えていることがたまに分からん。

 もしや俺が鈍感なのか? いやいや。鈍感主人公じゃあるまいし、ないない。







 翌日。

 1時限目の授業が終わり、休み時間。クラス中でより賑わうグループがあった。


「まひろさん聞いてー」

「私の話が先だよっ」

「アタシだって!」

「落ち着いてみんな。授業は6限まであるんだ。なら休み時間も6回……1人ずつじっくり話を聞けるね」

「「「まひろさ〜ん」」」


 まひろが微笑めば周囲にいた女子たちはメロメロになる。ゲームと変わらず、すごい人気。さすが王子様。


 入学式からだいぶ時間も経ったこともあり、最初はまひろに話しかけられず遠くで見守っていた女子たちがここ最近、接近的に関わっている。まひろは手慣れたようにさばいているし、問題ないようだ。

 一方りいなは、まひろが女子の対応で手一杯になってラッキーとばかりに結斗と接していた。


「あっ、もうすぐチャイム鳴っちゃう」

「まひろさんっ。次の休み時間も話そうねっ」

「もちろんだよ」


 まひろがようやく1人になったタイミングで席を立つ。

 まひろの近くの席である、結斗が期待したような表情でこちらを見てきたが……ごめんな、結斗。今回はお前じゃないんだ。


 まひろの後ろにきた。なんだがりいなにはジト目で見られてるんだけど……。


「まひろさん。ちょっといい?」

「おお、笠島くん。なんだい?」

「写真のお礼を改めて言おうと思って。ありがとうな」

「こちらこそ、勝手に撮ってしまってすまないね」

「まあそれは……今更じゃない?」


 この王子様。俺に結斗を盗撮しろとか頼んできたしな。


「ふふ、そうだね。笠島くんだけは慣れているか」

「全然嬉しくないけどな。あっ、写真はめちゃくちゃ綺麗に写っていたぞ」

「少々値が張る一眼レフカメラだからね。喜んでくれたなら嬉しいよ。メイドさんも受け取ったかい?」

「ああ。気に入ったのか写真立てに入れて飾っているぞ。俺はアルバムだけど」

「そうかい。それは嬉しいね」


 用件は終わったので自分の席に戻ろうとした時だった。


「はーい、席に着きなー。今から昨日言ってた小テスト始めるぞー」


 2限目の教科である数学の先生、メガネに黒髪ストレート。スーツ姿が決まっている、アラサーの石鶴先生が何やらプリントを束を持ちながら教室に入ってきた。


 ん? 小テスト……? 今、小テストって言った?

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