第27話 悪役と小悪魔な妹(?)

 私は可愛い。

   

 近くを通りすぎれば、男たちのほとんどが細々と「可愛い……」という声を漏らしながら目でいつまでも追いかけてくる。


 私はモテる。


 告白やナンパは数えきれないほどされてきたし、街を歩けばスカウトマンが寄ってきた。


 私は"可愛いからモテる"

 純粋にそうだったら良かったのに……。



 中学の頃。

 別のクラスだった姉は、愛想が良くて見た目のカッコ良さや振る舞い方が男女関係なく好まれて学園中の人気者だった。

   

 一方、妹の私は………教室でひとりぼっちだった。

 

『りいなちゃんまた告白断ったって!』

『ええ!? 告白したらすぐにヤらせてくれるんじゃねーの!』

『あんなえっろい身体つきして告白断るとか、レイプ願望でもあるんじゃねw』


『うわぁ。例の女じゃん。いかにもビッチって見た目してる……』

『なんか男子からチヤホヤされているけど、女子のほとんどは嫌ってるの知らないのかなw』

『いくら可愛いくても、アレにはなりたくないよね〜〜w』


 制服を押し上げる胸。むちむちのふともも。ひとより少し大きなおしり。私は中学生にしては、身体つきが出来上がりすぎていた。

 見た目だけでいえば軽そうなビッチ。


 私は可愛いからモテるんじゃない。


 私は……見た目だけで好き勝手に解釈されて遊ばれているだけだ。




「結斗ー。おーい、結斗ー」

「んぅ……んー……えへへー……」


 ダメだこりゃ。起きないな。


 休憩のため、バスはサービスエリアに止まった。

 一応、隣の席の結斗を起こそうと思い、肩を揺さぶるも……何かいい夢を見ているのが幸せそうな顔をしていて全く起きる気配がない。


 仕方なく、1人でバスを降りて休憩することにした。


「ふぁ……一回寝たらさらに眠くなるなぁ。コーヒーでも買おう……」


 結斗の分も買うか。確かブラックコーヒーは苦いからダメって言っていたからミルクティーとかにしよう。


 早い時間帯なので、サービスエリアにあるお店は開いておらず、飲み物は自動販売機で買うことに。

 みんな考えは同じようで、お店の隣にある自動販売機には、うちの学園の生徒でちょっとした列ができていた。


 並ぶのがめんどくさいのと眠気覚ましに、別の自動販売機を探してみる。

 

「もうちょい先へ行ってみるか」

 

 足を進める。最初の自動販売機からはどんどん離れていく。


「おっ、あったあった!」


 結局、端ら辺まで来た。

 財布から500玉を取り出した時。


「アタシの彼氏に色目使っただろ!!」

「!? え、なに……?」


 突然大きな声がした。すぐ近くだ。建物の角を曲がったところから。

 財布をポケットにしまい、恐る恐る覗くと……。


「そんなことしてないし」

「じゃあなんで私がいるのに彼がアンタに告白すんのよ!」

「そんなの本人に聞きなよー」


 1人はりいな。怒鳴り散らしているもう片方の女子は……クラスでは見たことのないから、他クラスだろう。


 何やら揉めているようだ。


「大体ムカつくのよ、その態度! 人を舐めくったような態度!」

「私はちゃんと話を聞いてるよ。その上で対応しているの。それに貴方の呼び出しにもちゃんと応じた」

「うるさいうるさい! とにかく私の彼氏がアンタと付き合うからって別れ話をしてきたの!! 絶対アンタがなんかしたんでしょ!!」


 女子の方、カンカンに怒っているなぁ……。話を聞いてるだけじゃ、りいながほんとに何かしたのか分からない。


 一方、りいなはというと……冷静だ。まるで慣れているような感じ。

 

 つか、止めには入った方がいいか? 女子の方、感情に任せて殴ったりしないよな? いや、でも部外者の俺が入っていった方が余計酷くなったりして……。


 一旦覗くのをやめようと、ゆっくりと動いた時だった。


 コツン……。


「あ、ヤベッ」


 足を少し動かすと、なにか硬いものに当たった。

 なんでこんなところにちょっと大きめの石ころがあるんだよ……!

 

 一旦話が切れて静かな時だったこともあり、小さな物音が響いた。

 

「っ、誰よッッ!! って……」


 俺がいるのがバレた。が、女子は俺を見るなり……顔を引き攣らせた。


 ごめんなさいね、怖い顔で。

 

「……チッ」


 女子生徒が険しい顔をしながら、俺の横を通り過ぎる。そして彼女を目で追っていたりいなと目が合った。


「盗み聞き?」

「なわけ」


 反射的に答えてしまったが……盗み聞きです。ごめんなさい。


 なんて声をかければいいかわからなくて……とりあえず、目的だった自動販売機に戻り、飲み物を結斗の分と合わせて2本買う。おつりを取り出す頃には、りいなが近くにきていた。

 

「……おつりあるんだけど、りいなさんもなんか飲む?」

「慰め?」

「ついで」


 できるだけ自然にそう返すと、りいなは数秒黙った後。


「しょうがないからもらう」

 

 その言葉で俺は自動販売機に160円入れる。エナジードリンク以外ならなんでも買えるだろう。


 りいなを見ると、いつもの元気の良さはどこにやら。ただ突っ立っているだけ。


 今は慰めの言葉より、そっとした方がいいな。


「好きなの選んでくれ。じゃあな」


 俺は先にバスに戻った。







 学園を出発して2時間後ほど。バスは、自然豊かな山の中にある宿泊施設ついた。ここ一帯が林間学校の主な活動場所だ。


 あらかじめ割り振られた部屋に荷物を置いて、ジャージに着替えてから外に集合。


 林間学校の一日目は、ハイキングから始まる。


 色々と説明があった後、宿泊施設から貸し出しが行われている、しっかりした登山靴に履き替えた。


 ハイキングは班での行動。班のメンバーは俺、結斗、まひろ、りいなの個性強めの4人だ。


「わあ! まひろちゃんカメラ新しくしたの!」

「せっかくの林間学校からね。これ、結構いい一眼レフなんだよ」

「へぇ〜。綺麗な景色がいっぱい撮れるといいね!」

「そうだね、ふふ」

 

 まひろは、その一眼レフで一体何を撮るのやら。


 ふと、りいなに目を向けると靴紐を結び直しているところだった。


「さっきはありがとう」

「え……お、おう……」


 まさかお礼を言われるとは思わなかった。


「でも心配とか情けとかいらないから」

「え……?」

「アンタなら分かるでしょ。日常が」


 あ…………。


 この暗い瞳を、俺はゲームで、パソコンの画面越しで見たことがある。


 りいなの過去って確か……。







「あのクソビッチ……絶対許さないんだから……」










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