第22話 悪役。バレていたらおそらく殺されていた

 昼休みになり、俺と結斗は屋上で昼飯を食べていた。


 俺は雲雀。結斗はりいなの手作り弁当である。ぼちぼち話しながらまったりした時間を過ごしていたが、


「まひろちゃんとりいなちゃんはきっと雄二くんと仲良くなりたいんだよ!」

「ぐふっ!? ごほごほっ!!」

「ゆ、雄二くん!?」

 

 突然、結斗がおかしなことを言うものだから、卵焼きを噛まずに飲み込んでしまった。


「し、しぬー……」

「死んじゃダメだよ〜!」


 心配してあわあわしている結斗を尻目に、お茶をがぶ飲みして咳をして……なんとか落ち着つく。

 

「……それで、さっきはなんて言った?」

「まひろちゃんとりいなちゃんは雄二くんと仲良くなりたいんだよ」

「…………」

「雄二くん、また喉に詰まったの? 顔が息してないよ?」


 顔が息してないとかパワーワードすぎるだろ。でも今の俺は虚無顔をしていた自覚はある。


 美人姉妹が俺と仲良くなりたい? 夢であれ。


「……なんでそう言い切れるんだ?」

「中学から仲良くしている友達の勘!」


 その勘はもっと恋愛の方に働かそうぜ。


「澄乃姉妹が俺と仲良くしたいって……ないないっ。それに2人は結斗に……その、結斗と仲良いじゃん。結斗しか興味ないじゃん」

「そんなことないと思うよ? だって、まひろちゃんとりいなちゃんが人の名前を覚えて、呼ぶなんて珍しいもん」

「名前を覚えて、呼ぶ?」


『ゆいくんの話を聞いてるだけじゃ分からない。だって笠島雄二、アンタ顔面怖いし』


『ありがとうね、笠島くん』


 この前の遊園地。そしてさっきと……確かに名前を呼ばれたな。よく思い出してみると、クラスメイトと接する時は、普通に会話はするが名前は呼んでない。


「ふむ……」

「ほら、思い当たるでしょ!」

「いやいや、たまたまだろ。それか、俺が結斗と一緒にいる影響でついでに覚えてしまったんじゃない?」

「きっと仲良くなりたいからだと思うんだけどなぁ〜」


 俺に結斗との時間を取られているから嫉妬してるんだろう、うん。警戒されて名前を覚えた可能性が高い。


「逆に聞くけど、結斗は2人のことはどう思うんだ? まずは、まひろさん」

「まひろちゃんは、頭が良くてスポーツも万能で、落ち着いた大人な対応。同じ年なのに、まひろちゃん凄くしっかりしているからなんだがお姉さんができたみたいなんだよね〜」

「……なるほど。りいなさんは?」

「りいなちゃんは、いつも明るくて、甘えん坊さん。料理が凄く上手で僕のお弁当はいつもりいなちゃんが作ってくれるんだぁ。ファンションセンスもいいんだよ! たまにりいなちゃんにコーデを選んでもらうことだってあるんだ〜」


 まひろとりいなの良いところという意味ではなく、恋愛的な方でどう思っているのかを聞いたつもりだっだが……これはこれでいっか。

 なんとも嬉しそうに話す結斗の姿に聞いているこっちまで微笑ましくなる。


「結斗は人を褒めるのが上手いな」

「んー、人を褒めるのに上手いってあるのかな? 僕は思ったことを素直に言っているだけだよ」

「素直に出た言葉で相手の良いところがそんなにででくるなんて、それも凄いぞ。結斗は天才だな」

「そうかなっ。……えへへー」


 うんうん。暴言とか吐いた事なさそうな純粋な顔をしてらっしゃる。


 ただそうなると……ちょっとだけ暴言吐いているところも見てみたいなぁ。


 お互い弁当を食べ終わったところで提案してみることに。


「なぁ結斗」

「うん?」

「ちょっと俺に暴言吐いてくれない」

「嫌だ。雄二くんに暴言なんて吐きたくない」

「そうか……」


 ハッキリ断られてしまった。

 結斗はいい奴だなぁ。だが、ここで諦める俺ではない。暴言がダメなら、嫌な顔……さてをやりますか。


「結斗。すぐに終わる。今から俺が言うことに従ってくれ」

「うん、いいよ」

「まず、お手」

「はい」


 俺が差し出した手の平に結斗が丸めた手をポンと乗せる。


「おかわり」

「はい」


 もう一度手を乗せる結斗。今のところスムーズにできている。


 さて、次が問題だ。

  

「ちんちん」


【ちんちん】


 犬のしつけに使われる。

 前肢を胸の前に上げて、体を垂直に立てる動作。

 

 そんな下品なことをいくら純粋な結斗がするはずがない


「…………」


 結斗の動きが止まる。

 さあ、俺に向けて、そんなことするかバカ! 


「その、雄二くん……」

「ん?」

「笑わ、ない……?」

「もちろん」


 ちんちんを堂々とする男……むしろカッコいいじゃないか!!


 結斗の手が動き出した。


 かちゃかちゃ


 ベルトを外し始めた。


「待て待て待て待て!? 何をしている結斗よ!?」

「えっ、雄二くんがちんちんって言うから、その……僕のを……」

「言ったが、誰も本体を見せろと言ってない!」

「で、でも……」

「でも?」

「……雄二くんが命令したから、だよ……」

「…………ごめん」

 

 少し頬を染めて恥ずかしがる結斗に罪悪感しか湧かない。


 何をやってるんだ俺はっ。本来の目的を忘れるな! 主人公の好感度を上げて美人姉妹からの魔の手から逃げるんだろうが!! 


「結斗。今のことは忘れてくれ……」

「う、うん……」


 なんだか気まずい空気になってしまった時だった。


 ガチャ


「おっ、見つけた。結斗たちはここで昼ごはんを食べていたんだね」

「ひぃぃぃぃぃ!?」

「わぁ!? まひろちゃん!」


 開かれたドアの音と声に驚き、すぐさま後ろを振り向くと、まひろがいた。


「結斗どうしたの? 顔が少し赤いよ?」

「ううん! なんでもないよ……!」

「そうか、ならいいが……笠島くんはなんだか青いけど」

「いや、はい……ほんと……なにもしてませんよ……カタカタカタ………」

「?」


 まひろにギリギリちんちんを聞かれなくてよかった……結斗にあんな事を命令したなんてバレていたら絶対殺されてたわ……。


「まひろちゃんの方こそどうしたの?」

「ああ。実は用があってね」


 結斗に用があると思い、俺は弁当袋を持って立ち上がる。


「結斗行ってこい。俺は先に教室に戻って……」

「今回は笠島くんに用があるんだ」

「………え」


 ……聞き間違いだよな? 今まひろが俺に用があるって……。


「それじゃあ先に行っているね、笠島くん」


 まひろはドアを閉じた。


「雄二くんこれって……やっぱりまひろちゃんは雄二くんと仲良くなりたいんだよ! 僕は先に教室に戻っているから2人でゆっくり話してね!」


 結斗の優しさが胃を刺激するなぁ……。


 それにしても、急に俺に接近してきて……まひろはなにが目的だ?










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