第12話 悪役。怪しさを見過ごす
「な、なあ。今日こそは……」
「ああ。てか、親睦会じゃなくてもっと少ない人数の方がいいんじゃない? 例えば1人ずつとか……」
「お、おいっ。抜け駆けするつもりかよっ」
放課後。クラスがまたそわそわしはじめた。
特に陽キャグループがヒソヒソと話しながら見る先には……もちろん美人姉妹。
結斗から聞いた話では、昨日は親睦会に参加しなかったらしい。もちろん、美人姉妹も。それから親睦会自体もなくなったそうだ。
昨日バッサリ断られたのに陽キャたちはまだ諦めてない様子……。
「そもそも両方だからダメなんじゃね?」
「そ、そうだな。誘いやすそうなら……りいなちゃんの方かな」
「ああ。なんか軽そうだし……」
相変わらず人を見た目で判断するなんて失礼な奴らだな。
美人姉妹の方はというと……
「おっと、もうこんな時間か。私は生徒会の顧問の先生に呼ばれているから行ってくるよ」
「お姉ちゃん早速勧誘されたんだぁ。まあ入試トップだったもんねー」
「お断りさせてもらうけどね」
「えー、じゃあ行かなくて良くない〜?」
「丁寧な断り方こそ、いい印象を抱いてもらえる」
「あー、はいはい。さすが優等生様。いってらっしゃい〜」
まひろが教室を出ると、陽キャたちが動き出した。
「り、りいなちゃん!」
「ん〜? 私に何か用かな?」
「お、俺らと一緒にこれから遊びにいかない?」
「りいなちゃんの行きたいところでいいからっ」
「なんなら俺らが代金持つし」
「う〜ん、どうしようかなぁ」
「「「……ごくり」」」
唾を飲んで見守る陽キャたち。もっとも、デカいおっぱいが目の前で揺れていてそちらに視線が夢中なようだが。
さて、陽キャたちにワンチャンあると思わせぶっている小悪魔様の答えは……
「でも私、あと12ヶ月は暇じゃないからなぁ〜」
「いや、それほぼ無理ってことじゃん!!」
「やっぱりダメかあ……」
「うんっ。一生無理♪」
ガードが硬いねぇー。
苦笑いしていると、ちょうど教室に帰ってきた結斗と目が合い……あっ、こっちにきた。
「雄二くん一緒に帰ろっ」
なんとなく誘われる気はしていたが……。
「悪い。俺、車だから」
ごめんな。うちのメイドが徒歩で行くことを許してくれなかったから。
「そっか……じゃあ校門まで一緒に行っていい?」
「お、おう」
「ありがとう!」
ぐいぐいくるな、主人公。
ふと、喜ぶ結斗の後ろにいるりいなをチラ見する。
「ゆいくんたらっ、まーたあの男といるし……」
なんか呟いてる。
「なぁ。めっちゃ見てるぞ」
「ん? あっ、りいなちゃん! 僕雄二くんと校門まで一緒に帰るね!」
「はぁ〜い♪」
りいなは笑顔で手を振った。まるでどうぞ〜、と俺に結斗を一旦譲るように。
意外だ。てっきり間に入って止めに入るかと思った。笑顔なのに圧を感じるけど。
教室を去る際、チラッとりいなの方を見ると何やら口を動かしていたが……もういちいち気にしてられないわ。
「わざわざ誘ってくれたのにすまんな、結斗。俺も今日は徒歩で行こうと思ったんだけどな……メイドが送るって頑なで……」
話自体聞いてもらえなかったけど。
「でもメイドさんは少しでも雄二くんと一緒にいたかったからじゃない?」
「一緒にか?」
「うん。僕が雄二くんと一緒にいたいようにメイドさんも雄二くんと一緒にいたいんだよ」
んー、あの雲雀が……ねぇ。
『ちんちん』
『んぷっ、ちゅぱっ、れるッ、ぬぷぷぷぷ!!!』
「うーん……」
想像がつかん。
「あっ、メイドさんってあの人かな?」
結斗の視線と同じ方を向くと、雲雀が校門前で待っていた。
「おや? 今日はお一人ではないのですね」
「おかげさまでな」
「は、はじめましてっ。僕は雄二くんの友達の佐伯結斗です……!」
「雄二様にお友達……」
「ふっ、意外か?」
「ええ。朝はあんなに学園に行きたくないと喚き散らしていらしていたのに。ぼっちライフ脱却ですね」
「っ、言うなよ……!」
は、恥ずかしいから……!
でも雲雀が強制的に学園に行かせてくれたから結斗とこうして楽しく学園生活を送れたんだよな。感謝感謝。
「結斗様。私は雄二様の専属メイドの雲雀と申します」
「雲雀さんですね。よろしくお願いします」
雲雀は相変わらず真顔である。
「僕はこれで失礼しますね。雄二くんまた明日っ!」
「おう」
結斗が去っていく。あっ、しまった。乗っていくかって誘えば良かった。
「いい方ですね」
「おっ、惚れたの?」
「いえ。悪人顔の雄二様の友達になるなんて」
「そっちかい!!」
確かにそうだけどさ!
「ところで雄二様」
「ん?」
ススッと雲雀が寄ってきたと思えば耳元で、
「……いくらお渡ししたのですか?」
「ほんと失礼だなっ! 純粋な友達だよ!」
◆
「結斗は例の彼と帰ってしまったかい」
教室に戻ってきたまひろは結斗のバッグが無くなったことを確認して、妹のりいなに聞く。
「………うーん」
「ん? 何やら悩んでいる?」
「ちょっとぉ……ねぇ……」
「へぇ、興味なかったんじゃないの?」
「興味ないよ。むしろ……あの人にゆいくんが興味がなくなるようにしたい」
「おお、怖い怖い。ほどほどにね」
「うん、ほどほどに……ね。……ぺろっ」
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