第11話 「"私の"結斗は可愛いだろう。はぁぁ〜〜♡」
ウルフカットの黒髪にブルーの瞳。スラッと伸びた足に、整った顔立ちのイケメン女子。
成績優秀、冷静沈着でオーラを放つ彼女だが、その正体は好きな人のためならばなんでもできるヤンデレである。
てか、近寄りたくないから大人しくしているのに毎度あっちから近づいてくるのはなんで? 俺がちゃんと悪役をしてないから強引に接触させようっていうゲーム側の意地悪なの?
「めんどくさそうな顔をしているね」
そりゃそうだよ。だって馬乗りして体力がなくなるまでフルボッコにしてくる張本人だもん。
「とりあえずここじゃ人目があって目立つし、別のところへ移動しようか」
「え、え……」
「ほら。めんどくさそうな顔をせずについてきてくれ。大体、移動した方がいいのは君もだろう?」
「ま、まあ……」
教室だと悪役顔の俺の方がいい印象を抱かれておらず、受け答えによってはさらにクラスでの好感度が下がる。
しぶしぶ教室を出て、人通りが少ない階段付近へ連れてこられた。
「それで俺なんかになんのようで……」
「君に一つ問おう」
なんか始まってしまった。
腕を組み、真剣な表情……これは、やはり俺に結斗との時間を取られていて怒っているのではないのか……。
ゴクリと唾を飲み、緊張した面持ちで構えていると、
「君……"私の"結斗はどうだ?」
「へっ?」
予想外の質問に間抜けな声を出しまう。しかも私のって……独占欲強い。
「聞こえなかったかい? 私の結斗は———」
「あ、ああ、聞こえてます。聞こえてますよ!」
「なら良かった。じゃあどうなんだい」
「いい人……だと思いますよ?」
「そうか……」
素直に褒めてみたが、一体この質問に何の意味があるのだろうか……?
「ふふ、ふふふ」
「え、なに?」
急に笑い出したぞ。
「そうだろう。そうに決まっている。私の結斗は可愛い。はぁぁ〜〜♡」
「はい?」
可愛いとは一言も言っていないのだけど。
まひろは頬に手を添えて、目をとろんとさせている。うん、好きな人のことを考えてるんだなーって、一目でわかる。
「結斗は可愛いんだ。そう、世界一かわいいぃ♡」
「へぇ、ソウナンデスネー」
何も見なかったことにしよう。
しかし、まひろのこの惚気という反応……本来、主人公である結斗に嫌がらせをする俺が真逆の友達というポジションについたことでバグが生じたかもしれない。
「君と話す結斗も実に可愛い。だから是非、君にその瞬間を撮って——」
「あれ? 雄二くんどうしてこんなところに? まひろちゃんまで」
お茶を買ってきた結斗がちょうど階段を上がってきた。
ん? まひろのやつ、今なにか言いかけて……
「やぁ結斗。今日も可愛……じゃなくて今日もかっこいいね」
「あ、ありがとう! ところでまひろちゃんも一緒に食べるの?」
「いや、一緒に食べないよ。私はただ結斗と仲良くしてくれるお友達に挨拶しにきただけだ」
「そうなの?」
ええ、めっちゃ嘘じゃん……。ひたすら蕩けた顔で結斗のことを語っていたじゃん。
「結斗。いいお友達ができてもたまには私たちにも構ってね? 結斗が構ってくれないと私は寂しさで死んでしまうかもしれない」
「まひろちゃんは大袈裟だなぁ〜」
これが割と大袈裟じゃないんだよなぁ……。
「じゃあまたね」
まひろは階段を登っていく。去り姿と王子様だなと思いながらまひろの姿が見えなくなるとホッと一息。
「まひろちゃんいい子だったでしょ?」
「あ、ああ……」
いい子というか……本当に結斗のことが好きなんだなぁーと改めて実感した。
「なぁ結斗。ちなみに今日の弁当って誰かの手作りだったりする?」
「うんっ。りいなちゃんの手作りだよ。朝、渡してくれたんだぁ〜」
「………愛されてんなぁ」
「?」
姉、まひろが屋上に戻ると妹のりいなは先にお弁当を食べ始めていた。
「お姉ちゃん本当に行ってきたんだぁ」
「確認は必要だろう? 彼は結斗に恋愛感情は抱いていなかったようだよ」
「どこで判断したの、それ……。大体、男なんだから当たり前でしょ」
「………」
「えっ、なにその無言。ゆいくんって男にもモテるの……?」
「恋愛の形は自由だと私は思う」
「え、え……」
「まあ結斗のお友達という彼はそれほど警戒しなくで大丈夫だよ」
「私は最初から興味もないよー」
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