第7話 悪役よりも闇がある美人姉妹
「ご馳走様。ふぅ、美味かった」
「お粗末です」
タワーマンションに帰って昼飯。外食するよりも雲雀のご飯の方が美味いので頼んで作ってもらった。
相変わらず美味かったが、メニューが明太子パスタにじゃがいもと明太子のサラダと明太子単品とやけに明太子が使ってあった。
「雄二様。私はこれから用があるので家を出ますね」
「おう」
「くれぐれも悪いことはなさらないように。例えば先ほどの私のおちんちんの真似を思い出して本当のおちんちんを宥め——」
「しないわ!!」
相変わらずの真顔でなんていうことを言うのだこのメイドは!
「ふっ、ですよね。では行ってまいります」
「ちょっと待て! 今の短い笑いはなんだ! おい!!」
雲雀はスタスタと素早くリビングを出ていった。
1人になった俺は満腹になった腹をさすりながらフカフカで座り心地の良いソファに寝転がる。
「ふぁ〜〜〜」
あくびを噛み締める。
食べた後はどうにも眠くなる。今日は美人姉妹と主人公と会って結構気を張っていたし、解放された安心感もあるのだろう。
「……っ、………っ」
俺はソファーでうたた寝を始めた。
…………。
……………………。
…………………………………。
———そこは薄暗くて、静かな場所だった。
そして……本当の"恐怖"を味わった。
足を拘束され、周りにはあらゆる道具がある。なにより馬乗りされ、身体は全く動かない。
爪を剥がされ、変な薬を飲まされ、身体は麻痺して……。
『———ね』
『———よ』
もはや姉妹の声さえも耳をふざくことなく聞こえない。
………さぁ、次は何をされる。
……どんな方法で俺は死ねる。
虚な瞳に映る笑った顔が2つ。馬乗りになった彼女たちの手が、また伸びてきて……
「ああああああああああーーーっ!!」
捕まれそうになった瞬間、飛び起きた。
「………いき、てる。現実じゃ、ない……」
首筋を触ると汗がビッショリ。シャツもちょっと濡れてる。最悪の目覚め……
「ゆう、じ様……」
「え、あ、雲雀……」
雲雀が俺に手を伸ばして固まっていた。多分起こそうとしてくれたんだろう。
というか、雲雀帰ってきていたんだな。少し寝るつもりが長く寝てしまったらしい。
「わ、悪いなっ、大声出して驚かせちまって。ちょっと変な夢を見てさ……」
「そうですか」
雲雀が一瞬、真顔から心配したような顔になった気がした。
カーテンが開きっ放しの窓の外は日が落ち真っ暗。ここからなら綺麗な夜景でも見れるだろう。
「雄二様。ご夕食はいかがなさりますか?」
「……夕食はいいや。雲雀悪い。ちょっと外の空気吸ってきていい?」
「っはあ〜〜。あー、初めて空気が美味しいなんて思ったかも」
タワーマンションから出て思いっきり空気を吸う。汗はすっかりひいた。
悪夢のように俺の脳裏に濃く、鮮明にバッドエンドの映像が流れる。それだけ恐怖だと感じたのだろう。
美人姉妹に関わると恐ろしいことになることを頭で身体で覚えている。
何故美人姉妹に馬乗りにされて体力がなくなるまでやられる羽目になったのかは……笠島雄二が主人公に色々やったから。
で、美人姉妹が逆上した。
それだけ主人公、佐伯結斗のことを愛しているのだろう。
愛する人のためにはなんでもする。いわゆる———ヤンデレ。
悪役の俺よりよっぽど美人姉妹の方が闇がある………。
「あああ、いかんいかん! 明日から学園なのにこのままじゃトラウマで平穏な学園生活さえもおくれない。こんな時は……コンビニでも行ってポテチなりチョコレートなり買って爆食いだ!!」
リムジンで通った時にコンビニがある場所を確認してある。今は財布なんて持っていなくてもスマホの電子決済がある。便利だよな。確認したけど上限までお金が入っていた。さすが金持ち。
徒歩10分でコンビニについた。
さぁて、たくさん買うぞ……。
「あれ? 君は」
「ん?」
向かい側からきたのは同い年くらいの男の子……だけど。見覚えがありすぎる顔に徐々に口が開き、大口が開けっぱなしになる。
「君は確か笠島雄二くんだよね?」
「ああ、ああ……」
「?」
この疑問げに首を傾げるサラサラ髪のイケメンの顔を俺は何度も画面越しに見たことがある。そして今日は現実で。
「いきなり声を掛けてごめんね。あ、僕は同じクラスの"佐伯結斗"だよ」
主人公ぉぉぉぉぉおおおおお!??
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