第4話 美人姉妹と主人公とただ見る悪役

「きゃー! まひろ様〜〜!」

「こっち向いてください〜!」


 近所迷惑じゃないかと思うくらいの黄色い歓声を受ける姉妹。


 まずは姉、澄乃すみのまひろ。

 初対面であるはずなのに女子たちが何故、彼女の名前を知っているのかというと……まひろは期間限定で読者モデルをやっていたことがあった。モデルの仕事はもうやっていないというのに、未だこの人気っぷりである。


 ウルフカット黒髪にブルーの瞳。スラッと伸びた足に、整った顔立ち。

 成績優秀、運動神経抜群。ゲーム内では男よりカッコいいとして学園の王子様と呼ばれ、これからファンクラブもできるだろう。


「はは、みんな元気だね」


 さわやかな笑みを浮かべながら手を振る姿はまさに王子様。


 マジもんのイケメンすぎてなんにも悪口が出てこない。

 俺だって必死に生きてるのに……。


「なんだよあのムチムチボディー」

「やっばっ。エロい……」

「入学式前に俺の股間が起立しちゃう…… 」


 そしてもう1人。主に男子から下心を秘めた視線を受けるのは、妹の澄乃りいな。

 焦げ茶色のツインテールにブルーの瞳。制服を押し上げる巨乳……というかシャツがピチピチで今にもボタンが弾け飛びそう。入学式までの期間にバストが成長したのか?


「あはっ。男は鼻と股間を伸ばしている人しかいな〜い♪」


 可愛い顔で小悪魔で下ネタOKなんてキャラが強すぎる。


 姉妹を見ようと沢山の人が溢れているが、姉妹が近くを通ると通路の邪魔にならないように、訓練されたように一斉に左右に開く。


「さすがメインヒロイン。間近で見るとオーラがある……」


 やっぱりゲームと実際じゃ迫力が違うな。


 王子様系の姉に小悪魔な妹……この美人姉妹こそがエロゲのメインヒロインだ。


 そして美人姉妹がいる学園だけで終わらないのがエロゲ。 

 そう、ここはエロゲの世界なのだ。

 エロゲにはヒロインともう1人重要人物がいる。


 そんな美少女に好意を向けられている主人公という羨ましい存在が。


 美人姉妹は先を歩いていた彼に追いついた。


「結斗」

「ゆいくーん♪」

「……え? まひろちゃん!? りいなちゃん!?」


 主人公が振り返り姉妹を確認すると大層驚いた声を上げた。


「な、なんで2人がこの学園にいるの!?」

「結斗はおかしなことを言うね」

「ほんとほんと〜。ゆいくんはお馬鹿さんなの? 私たちもこの学園に通うに決まってるからじゃん♪」

「えーーー!?」


 主人公さらに驚き叫ぶ。


「同じ学園だったの!?」

「ああ。ね」

「そうそう、〜♪」


 ちなみに、たまたまとか偶然と言い張っているのは嘘である。 

 主人公の進学先をこっそり調べた姉妹は主人公目当てだけにこの学園に来たのだ。


「そうなんだ! じゃあ高校でも一緒なんだね。知っている人がいて良かったっ」


 そんなことも知らず、主人公は無垢な笑みを浮かべちゃって……。


「……結斗は可愛いな」

「……ゆいくん可愛い」

「2人とも何か言った?」

「なんでもないよ」

「うん、なんでもない」

「そっか」


 話の流れで察したと思うがこの主人公。王道の難聴鈍感系である。


「あの男子、なんでまひろ様とあんなに親しげに……」

「アイツ、あの可愛い子におっぱい押し付けられてるぞ! ずりぃ!!」


 自分たちが遠目から見ているだけに対して、仲良さげに話す主人公に周りが嫉妬と疑問を抱き、ざわざわと別の意味で騒ぎ始めた。


「えっと……」


 主人公もさすがに気づいたようで……視線をキョロキョロさせて落ち着きがない様子。


「まひろちゃん、りいなちゃん。入学式頑張ろうね……! それじゃあ僕はこれで……」


 ヒロインの撒き方下手か。そんなことじゃ……。


「なに先に行こうとしてるんだい、結斗?」

「そうだよゆいく〜ん。一緒に行こうよ〜」


 ほら、美人姉妹にすぐ捕まった。

 2人は逃がさないとばかりに主人公の腕にくっつく。あっという間に両手に花状態の完成だ。


「ちょ、2人とも……!?」

「なぁに逃げようとしてるんだい、結斗」

「いや、でも僕が2人といるのは……」

「ゆいくんが私たちといてもおかしくないよね? だって私たちは中学の頃からの仲良しだもんね」

「そ、それはそうだけど……」


 両方から腕に胸を当てられ、迫られ……主人公は否定の言葉が出せないでいた。


「じゃあ一緒に行こうじゃないか。それに君の両親は遅れてくるんだし、私たちの両親もなんだ。今保護者と一緒にいないのは私たちぐらいだし寂しさを分かち合おうじゃないか」

「僕は別に寂しくなんか……え、僕の親が遅れてくることをどうしてまひろちゃんが知ってるの?」

「おっと。お喋りが過ぎたようだね」

「まあまあいいじゃん。私たちはゆいくんと一緒に入学式会場に行きたいのっ。ダメ……?」

「だめ、じゃないけど……」

「だよね。ありがとうゆいくん。優しいね〜」


 3人はそのまま進んでいく。傍からみればイチャイチャしているようにしか見えない。


 非リアにはダメージが大きい……ってああ。案の定男子たちが膝から崩れ落ちていっている。


 という俺も3人のイチャイチャぶりをずっと見せつけられるとおかしくなりそうだ。


 ……だが、その調子でいい。

 そのまま3人だけの空間で仲良くしていてください。


 本来3人の仲を壊そうとする悪役の俺は大人しく過ごすので。


「美人姉妹にだけは絶対近づかないぞ……」




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