馬乗りされて体力がなくなるまでやられる悪役〜今度は主人公の好感度を上げまくっていたら全員に惚れられた件〜

第1話 馬乗りされて、体力がなくなるまでやられる悪役

　どんな物語にも悪役がいる。

　何故なら主人公とヒロインの距離が縮まる最短かつ最高の脇役だから。

　……人間的には最低だけど。

　主人公たちの成長や恋を一番加速させるのに嫌われ者な存在……それが悪役というもの。

　悪役はやっつけられてこそスカッとするが、そんな悪役に自分がなってみたいとは誰も思わないだろう。

　それがプレイしたことあるエロゲで、その残酷なやられ方を知っているならなおさら。

「っ！！」

　ある日、俺は思い出した。

　馬乗りされて体力がなくなるまでやられた前世の自分を。

　正確的にはプレイしていたエロゲの悪役の記憶を。

『ふふふ……次はどの指の爪を剥ぎ取ろうかぁ』

『お姉ちゃん。私、親指がいいなぁ』

　手足を拘束され、周りにはあらゆる道具がある。

　なにより馬乗りされ、身体は全く動かない。もう何時間もこの状態で色々とやられている……感覚が麻痺してる……。

『や、やめてくれ……お願い、だ……』

『やめてくれ？　おかしなことを言い出したね。頭が変になったのかい？』

『お姉ちゃんってば、こわーい。まあ？　私たちに喧嘩売っといて、やめてくれなんてふざけたことを言ってるとは思うけど〜〜』

『お、俺は！　おおお前らには喧嘩なんて売ってないだろッ！！　俺はただ、あの男にッ！』

　ギロっ。

『ッ……』

　4つの鋭い眼光が俺を見下ろす。

　言葉も出ない。息すらするのもしんどい。

　………この姉妹はイカれている。

　解放されるなんて望む方が地獄。

　俺の体力がなくなるまで。下手したら死ぬまで……。

『無駄話はここまでだ。さあ続けようじゃないか』

『そうだね。なにも死にはしないんだから……』

『ああ………あああああああああああああーーーーっ！！！』

「あああああーーーっ！！！」

　思わず頭を抱えベッドに転げ回る。

　頭の中で一連の映像が鮮明にフラッシュバックしたが、トラウマものである。

　鏡を見れば、いつの日かの夜にプレイしていた成人指定のエロゲーの登場人物の１人であり、馬乗りされて体力がなくなるまでやられる悪役―――笠島雄二が映っていた。

「俺が笠島雄二……最悪だ……。笠島は美人姉妹と接触したのか……？　主人公に絡んだのか……？　やられる前日だったりして！　あああ！！」

　だが、頭を抱えるのもここまでにしよう。

　次に心配するのは、今はどういう状況でどういう環境にあるかということ。

　手がかりを探そうと部屋を探索中……勉強机の上のプリントに目がいく。

「……入学式の案内？」

　保護者用と書いてある一枚の紙には、『入学式の案内』と書いている。

　スマホで曜日を確認すれば……今日が入学式の前日であることが分かった。

「ということは、まだ美人姉妹とも会ってないし、主人公とも会ってない……いじめてもいない……」

　今なら原作みたいに壮絶なバッドエンドを迎えることなく……ごく普通に過ごすことができる。

　希望が見え、思わず拳に力が入る。

「こ、今度こそは笠島雄二（俺）は……安全に過ごしてやるからな……！！」

　あんな一生トラウマになりそうなバッドエンドはごめんである。