孤独
連喜
第1話 孤独
あなたは孤独に耐えられる人だろうか?
一人が好き?
一人の方が気楽?
しかし、人は完全な孤独には耐えられないと言われる。
ヘロンが1957年に行った”感覚遮断実験”というものがある。被験者を防音処理した薄暗い小部屋に入れ、耳栓・目隠しをして、手足も物が触れないように筒に入れて寝かせた。要は五感からの刺激を遮断して、被験者がどれだけ孤独に耐えられるかを調べたものである。
被験者は学生で、かなりの報酬を与えられたらしい。簡単な実験だが全員2日で脱落。3日間以上耐えられた人はいなかったそうだ。
それどころか、実験を始めて、8時間後くらいから、被験者は独り言を言ったり、歌を歌い始めたりと精神に異常をきたしていた。そして、2日後には白昼夢を見たり幻聴を聞いたりするようになったそうだ。
これは精神的な孤独とは違って、物理的な刺激を制限するものだが、人間は『適度な刺激・ストレス』と『適度な刺激に対する自発的な行動・反応』が必要で、それが満たされないと精神が破綻してしまうようだ。
無人島に住んでいる人もいるが、一人だとしても、風や海からの自然の音や、鳥の声などが聞こえるだろう。
俺は孤独に向き合うという挑戦をしたことがある。挑戦という能動的な言葉を使うのはふさわしくないかもしれない。ただ、長期の休みを一緒に過ごせるような親しい友達や彼女がいなかっただけで、俺自身も現実から逃げたかった。
当時は仕事が大変だった。
殺人的に忙しいスケジュール。土日どっちか休めればいい方。
平日は毎日深夜まで残業。さらに、出張もあった。
ほとんど自炊する暇もなく、隙間時間に弁当を買って食べる毎日。食べながらも仕事のことを考えている。着てるのは毎日スーツ。休日は死んでるから、私服はいらないような感じだった。
俺は年1回の長期休暇は、人に会わずに、引き籠ることを決めていた。
その職場では、みな2~4週間まとめて休んでいたから、俺は空気を読んで3週間休んでいた。4週間取る人は空気読めないか、偉い人、いなくてもいい人(そのうちリストラされる)だった。それで、俺は、長期休暇の度、山梨の別荘に行っていた。別荘と言っても一千万以下の安物件で、人に自慢できるような代物ではない。
気に入っているのは家自体よりも、森に囲まれた環境だった。毒の溜まった体を休めるには、最適な気がした。
俺はその3週間、完全に世間との交流を絶ち、ずっと別荘にいることにした。スーパーに買い出しに行く以外は、誰とも会わない。携帯の電源は切る。ペットなし、友達なし、彼女なし。セフレだけは多いが、連れて行かない。風俗のお姉さんも呼ばない。別荘地の知り合いもいないから、訪ねてくる人はいない。別荘に住んでると、近所の人が気さくに話しかけて来るものだが、俺は変人だから交流はなかった。
それから、金がもったいないけど、レンタカーを借りた。田舎にいると車なしでは生活できない。
俺の別荘は2LDKの平屋。ログハウス風の外観で部屋の中も木目調。玄関スペースがなくて、入り口を開けるとすぐにリビングになっている。そこにキッチンとソファーがある。土足じゃないけど、欧米風と言えるかもしれない。気に入って買ったと言うより、値段が決め手だった。売り主が、売り急いでいたみたいで破格だった。
せっかく買ったけど、そこを訪れるのは、年に2回くらいだけ。はっきり言って金の無駄。だから、普段は観光客に貸している。掃除なんかも管理会社がやってくれる。それでも、維持費がかかるから赤字。
俺が別荘を買ったのは、血迷ったからとしか言いようがない。まさに衝動買いだった。別荘を持ってると、管理費・火災保険・税金・水道光熱費がかかる。必要経費で毎年30万以上かかっていた。その他、必要に応じて修繕費などもいる。それに、都内から行くのに交通費もかかってしまう。
それでも、手放さなかったのは、あそこに行くと、他の場所では経験できない何かがあったからだ。その何かをうまく言い表すことができないのだが。
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