生きた心地のしない確率と夢

生焼け海鵜

第1話

 木村 勇斗は机の上、そこにある閼伽あかに朝日が差し込んでいる事に気付いた。それは、とある日の出来事であり、また永遠の出来事でもある事を悟った勇斗ゆうとは嘆き悲しみ、気付けば夜が更けていたのである。


 勇斗は思った。自分は愚かだったと。


 感情を無視した朝日は、狭いとも広いとも言えない部屋に乱反射した。その内、部屋の隅ベットテーブルに有る額縁中の人物にも、無論その優しい光は届く。クッキリと見えたその顔で、やはり勇斗に土砂降りの雨が降る。生きた心地がしない。そう彼は感じたのである。


 食欲もない、やる気が出ない、と生きる意味を見失う精神に、希望ひかりのなど届かない。只管に、火種は虚空に吸い込まれるだけであった。

「会いたい」

 その言葉を漏らした事に気付かない。勇斗は書いて字の如く、、そのものである。


 ふと視界に形見が写った。それはこの家に忘れていった、彼女のシュシュである。初めてのプレゼント物であり、彼女の思い出として最愛に値する物でもある。勇斗は、自身が差出人のプレゼントを、まさか形見として贈られるとは思わなかった。故に、未だ滝のような涙は、止まる気配が無い。


 母に呼ばれた。母は「朝食だよ」と告げる。

 ぐしゃぐしゃになった顔を吊り下げて部屋を出ていく勇斗。だが今の彼は、尚更食べる気分ではないと感じている。母は「食べなきゃ元気にならないから食べなさい」と食物を渋滞の起きた喉に流し込む。勿論、それは美味しいと感じない。母は不満そうな顔をした。


 形上の食事を終えて、彼は公園に向おうとした。何故だか、公園にだけは行く気がしたからである。玄関をくぐり外へ出る。空は晴れていて雲一つない快晴と言えるものであった。

 勇斗は、ヒョロヒョロと田舎道を歩いた。山に囲われたこの地域では、人の数も少なく噂は散弾の如く早く広がる。自分を見た人々が悲しそうな顔している事を察知しながらもその足を止めなかった。


 ベンチで据わっていると、ふと目の前人が立っている事に気が付いた。女である。

「悲しい顔してる。大丈夫?」

 そんな声を発した。

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