生まれる前に決めて来た
ゆりえる
第1話 今回のターゲットは……
「わっ、手強いの来たな~! 大丈夫か、ラーニ?」
仕事仲間のワーサルが、気の毒そうな顔を向けている。
まあ、彼の心配も無理も無い。
今まで、何人の能力者が束になってかかっても、今回のターゲットとなっている彼女、フォミィの頑固な心を変える事なんて出来なかったのだから。
「うーん、やってみない事には何とも言えないけど。頑張るしかないかな。ワーサル、君からのアドバイスは何か有る?」
小惑星激突とその振動波の影響で、結婚願望が欠如した人類が急増した。
それが、それまでの少子化に拍車をかけ、人口も急降下した。
その激減した人口を元通り状態に回復させる為に、婚姻数や出生数を増やす事が、僕らの『М&Bカンパニー』の能力者達の重要な任務。
それには、振動波によって侵された扁桃体の働きを正常化させ、従来のレベルまで異性への関心を復活させなくてはならない。
僕ら能力者は、直接、対象者の脳を操作する事は出来ないが、視覚や嗅覚や味覚に作用させ、感覚的に関心を蘇らせる事は可能だった。
「そうだな~。まずは、仲間達が試みて来た、今までの失敗事例をよく読んでおく事だな。俺は、ちなみに3番目の事例だ。フォミィは動物オタクで、特にオスのハムスターには目が無いっていうから、彼女が関心を引きそうな男の顔を、少しだけハムスターに似せて見えるように細工した」
ワーサルの能力は、『幻覚』。
ただし、それは、半日と持たず、元に戻ってしまう。
「かなり上手く行きかけたところで、タイムオーバー! 男が元のハムスターとは似ても似つかない顔に戻ってしまって、せっかくの計画がオジャン!」
フォミィに対する失敗事例集をチェックしてみると……
飼っているハムスターに言葉を話させ、男性に関心が向くように説得させようとした件、
好印象そうな男性の口を借りて、浮くようなセリフを並べてからプロポーズ作戦、
フォミィが危険なシーンを作り、救出した男性に恋心を抱かせようとした件、
メスのハムスターを連れた男性に、オスのハムスターと恋仲になるように仕向けさせ、Wカップルを狙った作戦、
ハムスターの面影が有るような顔の男性に目を奪われるように、暗示をかけてみたり……
フォミィが関心を示しそうなシチュエーションをいくつも試みたが、どれも見事に空振りに終わっていたらしい。
結婚適齢期の男女に限ると、大抵の場合は、どれか一つ二つの作戦を実行する程度で、簡単にゴールインする事が多かった。
それだけに、どんな作戦でも自分軸を全くブレさせないフォミィは、異例者扱いされだした。
「確かに……彼女を結婚に導くのは至難の業かも知れないな! さてと、これは、どうしたもんかな~?」
今までの功績から、僕には、とんな対象者が回って来ても成功出来る自信は有ったが、成功事例の少ないワーサルの手前、ここは、悩まし気な様子を見せておこうか。
「今まで、失敗した試しが無かったラーニでも、頭を悩ませるとは! これは見ものかも知れないな~! あのフォミィに対して、お前が、どんな作戦で行くのか? たまには、俺らも高みの見物とさせてもらうよ!」
フォミィが自分の担当を外れたのをいい事に、豪快に笑って僕の肩を叩いてきたワーサル。
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