02 精霊の救出
その間も王国アミリア中部ではトルネードドラゴンが、王国イージェプトの砂漠地帯ではアースドラゴンが猛威を振るっていた。
「次は砂漠地帯だ」
時間との勝負だった。《クイーン》が動き出す前に、1人でも多くの精霊を救っておきたかった。
智希と光莉、イフリートは砂漠地帯へ転移した。時差により日の出から2時間ほどたっているが、まだ気温はそれほど高くない。
到着してすぐ、『砂塵耐性』を張る。
…が、アースドラゴンの放った岩の塊が飛んできたので、慌てて『物理攻撃耐性』を張る。
「ドラゴンの攻撃は投擲や砂嵐、地震に地割れ…地上戦は厳しい」
「わかった。軍隊を撤退させて、アウグスティンさんも安全な場所へ」
先にイージェプトに転移していたアウグスティンと合流し、ドラゴンの情報を伝え聞く。
先日イージェプトで会合を行ったスィラージュも現場に駆け付けていた。
アウグスティンの合図で、再び軍隊は全員『転移』で撤退する。突然戦う相手を失い、魔族達は混乱する。
先程と同様にイフリートが、ドワーフやゴーレムの戦闘員に紛れる土の精霊・ノームを見つけた。背の低い少年のような姿だった。
今度は智希が『捕縛・蔓葛(ヴァインズバインド)』でノームを捕縛する。
「い、イフリート…!お前、生きて…」
「あぁ、人間に助けられた。お前も助けてやるから大人しくついてこい」
周囲にいたドワーフやゴーレムからの反撃は、風魔法『狂飆の鞭(ストーミーウィップ)』で躱す。
光莉とイフリートは、ノームを連れて皇宮に転移した。
「『特殊結界・失神』」
智希が『特殊結界・失神』を張る。
結界の範囲内にいるドワーフやゴーレムは、その場に気絶する。
智希は続けて、『飛翔』しながらアースドラゴンの気を引く。
「こっち来い、こっち!……っと、危ねぇ」
アースドラゴンは飛んだり地上に降りたりしながら、岩などの投擲や砂嵐、地震などの攻撃を放ってくる。
『飛翔』して攻撃を避けつつ、ドラゴンを誘い寄せる。
「『超重力(ハイパーグラビティ)』」
そして、予め張っておいた罠『肉食植物地獄(カーニヴァルス・アビス)』の真上で『超重力』の魔法をかけ、アースドラゴンを罠に突き落とした。
「かかった!」
アースドラゴンは必死にもがくが、もがけばもがくほど肉食植物の獰猛な針や棘がアースドラゴンの硬い皮膚にくい込んでいく。
「『毒荊棘の森(ヴェノムスパインズ)』!
『風神の咆哮(ウィンドゴッズロアー)』!!」
「ギァアア!!!ギャァアアアオゥ!!!!!」
うまく罠にはまったところで、畳みかけるように木属性・風属性の攻撃を仕掛ける。
「これでとどめだ!
『世界樹の生贄(ユグドラシル・サクリファイス)』!!!」
アースドラゴンが弱ってきたので、最後の攻撃を仕掛ける。
地面とドラゴンの身体に絡みついた世界樹の根は固く、その身体を拘束し、さらに締め付けられ養分を奪われることでアースドラゴンは意識を手放した。
その場をスィラージュに任せ、再度皇宮へ転移する。ちょうど光莉らによるノームの『解呪』も終わったようだ。
光莉と智希は再び“混和”し、イフリートと共に次の目的地へと急ぎ転移した。
最後は、王国アミリア中部。風属性であるトルネードドラゴンにケンタウロス、オークなどの敵がいる地域。
トゥリオールと小さくなったポッポは先に転移していた。旧帝都のアクアドラゴンの処理は応援の魔導師に引き継いだらしく、状況を智希らに伝える。
「トルネードドラゴンはとにかく動きが速い。ケンタウロスの弓も厄介だ」
「了解。軍隊の撤退を」
アウグスティンも遅れて駆けつける。アウグスティンの指示で軍隊が全員撤退する。
辺りは敵のみとなったので、ポッポが巨大化し本格的に攻撃を仕掛ける。
トルネードドラゴンはそれを阻むように素早く滑空しながら、竜巻などの風属性攻撃を繰り出してくる。
「精霊はトルネードドラゴンの頭上にいる」
「マジか!先に魔族たちを何とかする!」
木の精霊・ドライアドはドラゴンの頭上に跨っているようで、イフリートがようやくその姿を捉えた。
ポッポやアウグスティンらと共に智希も『炎操作・サラマンダー』で敵を囲い、散り散りだったドラゴン以外の敵が追い詰められたところでようやく『特殊結界・失神』を張った。
魔族達は気絶し、残る敵はドライアドとトルネードドラゴンのみとなる。
「くっそ…動きが早くて攻撃が届かない…!」
「大きめの結界に閉じ込めよう!」
光莉はそう言って、『特殊結界・監禁』を辺り一帯に大きく張った。その中になんとかドラゴンを閉じ込めることができた。
「『厚壁・鉄筋鉄骨混凝土(シックウォール・SRC)』!!」
智希が鉄筋鉄骨コンクリート製の大きな壁をいくつも立て、徐々にドラゴンを追い込んでいく。
それに合わせて光莉も結界を徐々に縮め、ドラゴンの動きを制御していく。
最終的には壁と結界の間にドラゴンを閉じ込めることに成功した。
「『捕縛・火焔(ファイアバインド)』!」
トルネードドラゴンはまだ暴れているが、火魔法による捕縛でひとまず身動きは取れないようだ。
イフリートと智希が、ドラゴンの頭上にいる精霊・ドライアドに近付く。
「ドライアド。助けてやるから、ついてこい」
「い、イフリート…?!」
「悪いな、捕縛だけさせてもらうぞ」
抵抗する様子はなかったので、智希が無属性の『捕縛』で捕らえる。
光莉とイフリートはドライアドを連れて皇宮へ転移した。
「あとはドラゴンだ!
ポッポ、『豪火竜・火炎放射(ファイアドラゴン・フレイムスロワー)』!!」
「キュウゥ!!」
「『猛火の大蛇(ブレイジングサーペント)』!!」
ポッポ、智希が続けて火魔法を放つ。捕縛により身動きが取れなくなったところを火魔法で追い詰められ、トルネードドラゴンは気を失った。
「どういうことだ?!なぜ精霊どもからの交信がない…?!」
「く、クイーン…!!」
ドラゴンの準備が整い、ようやく人間たちへの一斉攻撃が始まった…にも関わらず、精霊たちからは何の交信もない。
「ドラゴンが3体とも…捕えられました……!!」
駆け込んできた魔族の言葉に、クイーンは卒倒しかける。
「……どういうことだ……!?」
「現場にいた魔族たちもゴッソリいなくなっちまって、状況が掴めてなくて…」
まだ仕掛けてから数分とたっていないのに?
そんな、まさか。召喚者の力がここまでとは。《クイーン》は、自身の顔が青ざめるのを感じる。
檻に捕らわれている精霊王は、控えめに言葉を発する。
「……エルフクイーンよ。もう辞めよう、こんなこと。戦うことになんの意味が…」
「黙れ!!!」
精霊王の言葉を遮り、《クイーン》は大声をあげた。聞く耳を持たぬ《クイーン》に対し、精霊王は深いため息を落とす。
「シェイド、ウィスプ!準備はいいな!?」
「は、はい…!」
《クイーン》は、残る2人の精霊を呼び寄せた。
「帝都へ行くぞ」
《クイーン》の決意は固かった。
魔族が終わるか、人類が終わるか。覚悟をもって、ついに敵陣へと乗り込んだ。
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