【第2部突入】ふれて見つめて、魔力増強。~もうひとつの地球に召喚された同級生2人がゼロ距離でピュアな恋愛はじめました~

pico

【第1部 召喚編】プロローグ

β地球への召喚








―――――【マナの混和こんわ】とは


 「つい」を結んだ相手と、両手・両足・頭部の5箇所を同時に触れ合わせることにより、体内の魔素まそを混ぜ合い強化、安定化させることをいう。


(『創世の歴史と古代魔法の変遷』より一部抜粋)











「……朝倉さん、覚悟決まった?」

「き、決まんないよ、そんなの一生! でもっ……やるしかないじゃん……」


 向かい合い、智希は光莉の手をとった。

 光莉の暖かい手が、智希の手を気まずそうに握り返してくる。


 目を合わせ足元を見やった。

 どちらからともなく距離を縮め、互いの爪先を合わせた。


 近い。何もかもが当たりそうだった。


「目、閉じてていいよ。俺からいくよ」

「わ、わかった……」


 一斉に向けられる神官たちの視線を横目に見やりながら、光莉が目を閉じた。

 その白い肌は、どこか赤みを帯びて見える。


(なんなんだよ、この世界……)


 光莉に悟られない程度に、小さくため息をつく。

 腰をかがめ、触れ合う。

 2人の間がゼロ距離になったその瞬間、智希と光莉は光に包まれた―――














 ◆◆◆


 天野智希ともきは、今日も眠かった。

 連日のバイトのおかげで、金も疲労も順調に蓄積されていた。


「とーもーきっ」


 正門をくぐった瞬間、リュックを背負った背中にずしんと重みを感じる。


「……篠田、重い」

「暗いなー、朝から!

 なぁ、今日用事ある? 今日のバイト変わって欲しくてさぁ」

「またか。ヤダよ、俺だって暇じゃねぇの」


 クラスメイトでバイト先も同じ篠田は、女の子とのデートだなんだと理由をつけては、いつものように智希にバイトの代わりを押し付けてくる。


「お願い! 念願のサユリちゃんとのデート取り付けたんだよ~」

「知らない。シフト入ってる日に約束すんなよ」

「今日朝倉ちゃん来るよ? お前可愛いって言ってたじゃん」

「関係ねーよ、今日行ったら俺6連勤だよ? むり」


 腕にしがみついてくる篠田を振り払おうとすると、篠田は最終手段の切り札を出してきた。


「……代わってくれたら1000円あげる」

「のった」


 所詮しょせんこの世はカネ次第。

 篠田はうなだれながら、財布から千円札を取り出し智希の制服のポケットへねじ込んだ。









「いらっしゃいませー!」


 放課後、智希は篠田の代わりに厨房へ入った。

 全国チェーンのファーストフード店とはいえ、都心から離れたこの街ではそれほどの混雑もなく1日が過ぎる。


 午後8時を過ぎれば客もまばらで、この時間は接客と厨房にそれぞれ1人ずつスタッフがいるのみだった。


「天野くん、返品のナゲット食べるー?」

「食う食う」


 注文カウンターから厨房を覗き込んだのは、接客スタッフの朝倉光莉ひかりだった。


 光莉とは同じ高校だがクラスは別々で、バイト仲間としてようやく少し話すようになった程度の仲だ。

 ちょっとギャルっぽくて友達が多い、智希とは系統の違うタイプだ。


「天野くんは、今日も篠田の代理?」

「うん。サユリちゃんとデートだって」

「え、サユリって2組の? うわぁ、今度はそっちに手出したか」


 冷えたナゲットを口に運びながら、光莉はドン引きした表情を見せる。

 智希は『サユリちゃん』が誰なのかは知らなかったが、顔の広い光莉は知っている様子だった。


「てか天野くんずっと働いてない?」

「6連勤はさすがにヤだけど金につられた」

「買収されたかー」


 そう言って光莉はケラケラと笑った。

 すると、呼び出しボタンが店内に響く。


「やば! 行ってくる」

「よろしく」


 慌ただしくナフキンで口元を拭いて、光莉は注文カウンターへと戻っていった。


(この時間客来ねーし、そのうち夜の営業なくなるだろうな。そうなったら別のバイト探さないと)


 とにかくお金が必要だった。お金を貯めて、家を出たかったからだ。


 智希は訳あって中学2年の途中から叔父の家で暮らしている。

 叔父はよくしてくれているが、《迷惑をかけながら生きている》ことが辛かった。








 22時になり、2人は深夜帯のバイトスタッフと交代した。


「天野くん、今日は電車?」

「うん、今朝はさすがにチャリ無理だった」

「朝すごかったもんねー、雨」


 2人で駅に向かいながら、なんてことない会話を続ける。

 6月末になりじわじわと夏の気配を感じるようになったが、夜はまだまだ涼しかった。


「朝倉さんは合唱部忙しくないの?」

「バイトある時は録音した伴奏使うから、バイト優先していいって言ってくれてる」

「カッケーなぁ、ピアノ弾けるの」

「あはは、ピアノ以外はなーんもできないよー?」


 智希は、光莉と話している時のこの空気感が嫌いではなかった。


 誰かをさげすむこともなく、自身の能力を誇示こじすることもなく、相手のことを根掘り葉掘り探ることもなく。

 ちょうどいいんだろうな、と智希は感じていた。


「エレベーター来てる。乗っちゃお」


 都内とはいえ郊外の小さな駅なので、改札のある2階までは階段とエレベーターで上にあがるしかなかった。

 タイミングよく降りてきたエレベーターに、2人で乗り込んだ。


「蒸し蒸しするな」

「湿気溜まってるね」


 2階のボタンを押すと、扉がゆっくりと閉まる。

 1階分上がるだけなので、5~6秒もすれば着く、はずだった。


「なんか、おかしくない?」

「えらい時間かかってんな……」


 それから10秒、20秒と時間が過ぎていく。

 昇っているような感覚はあるが、一向に2階に着く気配はなかった。


 すると突然、ガタンッ、とエレベーターが停止する。


「……停まった」

「なんだったの……?」


 エレベーターの扉が開いた。

 湿度の高い空間からようやく解放される、と思ったが、目の前に広がる景色に2人は言葉を失った。


「な……こ、これ何……」


 ようやく絞り出した智希の声は、裏返っていた。

 扉の向こうには、木々が所狭しと生い茂る森があった。


 夜だったはずなのに、木々の間からは昼間のように明るい太陽の光が差し込んでいる。

 辺りからは時折、鳥やサルのような動物の鳴き声が聞こえる。


「あ、ああ、あまのくん、これ何!?

 どこ!? 駅は!?」

「わ、かんない。少なくとも、駅では……ないね」


 光莉が智希の腕にしがみついてきたが、そんなことも気にならないほど呆然としていた。


 カチャカチャとエレベーターのボタンを押してみるが、全く反応はなかった。エレベーターは完全に停止してしまっているようだった。


「し、死んじゃったのかな、うちら……」

「……いや、息はある、けど……そういう問題じゃないな…」

「ごめん……私がエレベーター乗ろうって言ったから……」

「いやいやいや、そういう問題でもないから気にしないでよ」


 光莉が目を潤ませたので、智希は必死にフォローをした。


(2人とも生きてるとしたら、なんかどっか別の場所に飛ばされた? テレポート的な?

 なんのためにどうやって……)


 考えても、混乱するだけだった。恐る恐る、扉から顔を出してみる。


「だ、大丈夫……?」

「うーん……なんか、右も左も森って感じ……」


 エレベーターから、一歩足を踏み出した。

 景色は変わらない。目を凝らしても、広大な森の景色が広がっているだけだった。


「うわぁっ」

「きゃあ!」


 その時、エレベーターが大きく揺れた。

 揺れの反動で智希は外に飛び出し、光莉も続いて智希の傍に駆け寄った。


 辺りがやけに暖かかった。いや、暑かった。

 それに、ビュゥウ、ビュゥウ、とリズムよく突風が吹いている。


 これはやばい気がする。智希の頬を、汗がツーっと伝った。


「フゴォォォ、フゴォォォ」


 巨大なカバの鼻息のような音まで聞こえてきた。


「あ、あ、あ、あ、あま、のくん、、、!!!」


 振り返ると、もはや残骸と化した元エレベーターの鉄の箱の上を、5メートル以上はあろうかと思われる大きな鳥が飛んでいた。


 いや、鳥ではない。

 翼はあるが、尻尾もある。足の爪は異常な程大きく、顔は恐竜のようだった。

 そしてその大きな躯体くたいに、炎をまとっている。


「ド、ラ……ゴン?」

「ギェエエエエエエエッッ!!!」


 智希の絞り出した声は、ドラゴンの鳴き声にかき消された―――








「きゃぁぁあああああああ!!!!!!」

「うわぁああああああああ!!!!!!」


 2人は一斉に駆けだした。

 行く当てなど無かったが、そのまま突っ立っていれば確実にドラゴンの餌になると感じた。


「ブォォオオオオ!!!!」


 ドラゴンが、火を吐いた。

 ギリギリのところで2人はかわしたが、先ほどまで通ってきた森は完全に火に焼かれていた。


 これはアカン、今度はほんとに死ぬ。

 そう思いながらひたすら走っていると、目の前に突然人が現れた。


「大丈夫ですか!? 援護します!!」


 智希たちと同じくらいの年齢の、外国人の青年だった。


 2人とドラゴンの間に立ち、何かブツブツ唱えたかと思うと氷の槍のようなものがドラゴンに向かって飛んで行った。


「ギァア!!!」


 槍はドラゴンの首元に刺さり、ドラゴンは身体をよじって小さく悲鳴をあげた。

 ……が、少し怯んだだけでまたこちらに獰猛どうもうな視線を向けてくる。


 すると再び人影が突然──今度は2人、現れた。


「いた、リオン!!」

「イオ! ライル!!」


 イオ、ライルと呼ばれたのは同い年くらいの青年2人だったが、2人とも軍人風の格好をしていた。


 一人は背が低く、もう一人は智希よりも背の高そうな青年だった。


「ここは任せてお前ら、飛べ!」

「早く行け!」


 2人は智希たちを庇うように立ち、ドラゴンに向けて水や氷の攻撃を仕掛け続ける。


「ありがとう! 2人とも手を繋いで!!」

「え、え?」

「早く!!」


 リオンと呼ばれた青年に言われるがままに、智希と光莉は手を繋いだ。

 青年も智希と光莉の手を取り、呪文を唱えた。


 その途端、全身にグッと重力がかかるのを感じた。








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