第23話
ダン親方は、ミクタから徒歩で1週間ほどかかるイェンという街にいる。ロッドさんのお店や、リタさんやマリカさんが居る街、マニチから3日程で行ける。
「イェンなら、ナビ埋めてるからすぐ転移できるよ」
「そうなんですか? いつの間に行ったんですか?」
「護衛依頼で行った街は全部ナビ埋めてあるよ。マイスが作ってくれた箱で管理できるから助かるよ」
ギルドに売ったあの箱は僕ら用にも作った。箱に新しいナビと、連携してるナビの居場所が分かる地図を同時に入れたら、もともとある地図にナビを追加で連携できる。ギルドでも大絶賛された機能だ。後から助っ人が行く時なんかに便利なんだって。
実際それでいくつかのパーティーが危機を脱したらしい。
そんな事を聞くと、作って良かったと思う。やっぱり道具は使われてこそだよね。
ナビ同士を連携するには同時にくっつけるしかないんだけど、箱と地図を使えば離れていても後から追加で連携できるから、うちではアオイさんの転移ポイントの管理に使っている。本当は転移ポイントってよく知ってる数ヵ所しか設定出来ないらしいんだけど、ナビを使えばいくらでも転移ポイントが増やせるんだって。ただ、この事はまだギルドにも言ってない。そのうち気がつく魔法使いの人が現れるまで言わないそうだ。
「面倒な事になるのは嫌なのよね。発見されても、出来るだけ知らん顔するつもり。売ろうと思ってた転移の魔道具はカムフラージュの為に残しておくことにしたの」
確かにそうだね。アオイさん達に来る仕事、多いもん。これであちこちの街に行けるって分かったらもっと指名依頼が来ちゃうし、そのうち面倒な人が目をつけたりしそう。それはダメだ!
「さ、じゃあ行ってみよう。カナがケーキを焼いたよ。ダン親方は甘いものが好きで良いんだよね?」
「はい、趣味が変わってなければケーキは大好物の筈ですよ」
籠から甘い香りが漂ってくる。料理は覚えたけど、お菓子はまだ作れないんだよね。今度カナさんに教えて貰おう。
親方は、年だから息子さんの家に厄介になると言ってたけど、本当は僕の事を抗議してミクタから追い出されたんだよね。
まず、それを謝らなきゃ。緊張するなぁ……。しばらく会えないと思ってたからなぁ。
「えっと、教えて貰った住所はここです」
「よし、じゃあ訪ねてみよう」
「こんにちわー! ダンさん居ますかー?」
「んー? 誰だぁ?」
「お久しぶりです。マイスです」
「……マイス?」
「はい!」
「マイス! オメェ無事だったか! 良かった! 良かった……」
「無事?! え、僕はずっと元気でしたよ」
「ミクタからマイスは何処だって問い合わせが100回以上来たんだ。俺のとこに居ないかってな」
「え?! なんで?」
「オメェ、家にも居ねえし、街を出た形跡も無いしで、何処に行ったか分からねえって……」
「あ」
「あ、じゃないわよ。どういうこと?」
「僕が街を出た時、門番さん居なかったです。街出る時って記帳しますよね? 冊子はあったけど、僕は何も書かず出てきちゃいました……」
あの時は、落ち込んで落ち込んで、そんな事考える余裕なかったけど、よく考えたら門番さんが居なくても街を出る時は記帳するルールだった。
わ、忘れてたぁぁぁ……!!!
「マイス、その凹みっぷりを見るに、完全に忘れてたね」
「はい……心配かけてすいませんでした……」
「なぁに、無事なら良いんだ! で、俺のとこ来たって事は、オメェはもう一人前なのか?」
「まだ自信はありませんが、一人前にはなれたと思います」
うぅ……きっちりキッパリ一人前だって言えないのが恥ずかしい。でも、ナビを作って売れたし、家もひとりで作れたし、一人前だと思う。
うん、僕は一人前の職人だ。
次は、一流の職人を目指そう。
ダン親方は、僕の顔を見て嬉しそうに笑った。
「そうか! マイスがそんだけキッパリ言うなら大丈夫だ! オメェ、俺が何回一人前だって言っても、まだまだだとか、僕は見習いだからとか言ってたもんなぁ」
「少なくとも、見習いではないなって思います。家も建てましたし、魔道具も売れました。僕ひとりの力じゃないですけど」
「仕事なんてひとりでやるもんじゃねぇ、それが分かっただけオメェは成長したよ」
うっ……確かに以前はひとりでどれだけの事が出来るかにこだわってた気がする。
クビにばっかりなるのは僕の技術が足りないんだと思ってたし、もっとひとりで出来る事が増えたらクビにならないって思ってた。
実際は、騙されてた訳だけど。
でも、不思議と恨みとかは無いんだよね。正直、前はあったよ。思い出すだけでイライラしたし、悔し涙も何回も流した。
だけど、アオイさん達とナビや家を作ってたらどうでも良くなってきたんだ。
それに、ミクタであれだけクビになったおかげで色んな仕事を覚えられたから、みんなの役に立てるし良かったかなって思う。
そう言ったら、お人好しもいい加減にしろって怒られたけど。僕、お人好しかなあ?
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