第2話

「よーっし! 次にマイスが働くところを決めるくじだ!」


「うぉぉぉ!!!」


僕ってくじ引きで職場決められるくらいの厄介者だったんだ。へこむなぁ。さすがに部屋に入るのは憚られて、ドアの前で立ち止まる。


「今回は早かったよなぁ! たった半年だぜ!」


「だよなぁ。しっかもあのジジィ、マイスはもう立派な技術を持っとる! 早く見習いを卒業させろとうるさかったんだぜぇ」


親方、そんなこと言ってくれたんですね。ありがとうございます。あぁ、また涙が……。


「だから、俺ぁ言ったんだ。マイスをいますぐ手放すか、この街を出ていくか選べってな!」


「んで、あのジジィはこの街を出て行ったと!」


「しかもマイスも連れて行こうとしたんだぜ! そんなの許されるか?!」


「いーや、許されねぇ!」


「そーだ! そーだ!」


「でもマイスの意思なら出ていく事は止められなかったんだ。おめぇら俺に感謝しろよな。ずっと監視して、ダンがマイスに余計な事を言わねえようにしておいたんだからな! 上手いこと言い包めて高い魔法契約までしたんだぞ!」


「うぉぉ! ギルド長すげぇぇ!」


「かっこいいぜぇ!」


どういう事だ。僕は技術がない厄介者じゃないのか? それに魔法契約ってなんのこと? 僕は魔法契約なんてした覚えがない。って事は、ダン親方に何かしたのか?


「おめぇらも、もっとうまくマイスを使えよな。あんまりいじめたら自信なくして職人辞めちまうぜ!」


「酒場と、八百屋だったか?」


「おう! 手をまわしてクビにしてもらったんだ!」


……クビになったのは、僕の態度が悪いからじゃなかったんだ。


「もうここに来るしか仕事ねぇじゃねぇか!」


「そーゆっこった、資格もないから自分で店もできねぇし、ダンの家は安く買い叩いてやったからマイスに碌な賃金は渡せてねぇハズだ。あのジジィを慕ってたから1週間くらいは落ち込んでるかもしんねぇが、あとは働かねぇと食っていけねぇだろ?」


「あのジジィの店、そんなに客もいなかったから蓄えはほとんどねぇだろうし、家を売った金も旅費で消えちまうよな。マイスに給料上乗せしてもせいぜい1ヶ月分追加するくらいが限界だろ」


「よっ! ギルド長の策士!」


「さぁて、次はどこに行ってもらおうかなぁ。当たったヤツはしっかり上納しろよなー!」


「マイスの開発した商品は確実に売れますからね。上納金なんて安いものですよ」


「ホントはずっと雇っていたいんだがなぁ」


この声、僕は無能だってクビにした家具職人の親方だ。


「それは聞けねぇぜ、あいつはずっと見習いでいてもらわねぇと」


「けどよぉ、次の所でマイスは見習いを卒業だろ?」


「あぁ?! 誰がそんなこと言ったよ?」


「だってギルド長、出ていこうとするマイスにそう言ってたじゃないですか。あと1年頑張れば、正式職人になれるぞって」


「言ったぜ。けど俺は1年頑張ればって言ったろ?」


「まぁたクビにする気かよ!」


「そーゆーことだ。次にマイスを雇うところは、最長で1年だからな! それと、給料は低めにしろよ! あのジジィ、見習いにしちゃぁ良い給料渡してたんだ! その分レンタル料で多めに引いてやったけどなぁ」


ギルド長や職員・職人達の下品な笑い声が響く。以前僕がお世話になった親方の声もする。悔しい、僕は利用されてたんだ。いっそ文句を言う?


いや、今ここに入る勇気はない。ダン親方を追いかけたいけど、もう間に合わないだろう。なんで僕はここにいるんだ、今までの15年は何だったんだ。僕は、自分の足元が崩れるような感覚に囚われていた。

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