第46話 魔国で1


 いよいよ今日は魔国に行く日で、一緒に行くのはナナリーナ、ジエル、ローラン、ササリン、ミンク、バース、ライザーの7人だ。


 キョウト街から深淵の森の奥地のライザーと出会った場所に移転して行き、ナナリーナとトムが風魔法で空を飛び、ジエル、ローラン、ササリン、ミンクはライザーの背中に乗りサリーの後を付いて魔国に向かったのだ。


 山脈の中腹に着き降りて谷底を見ると霧でハッキリ見えないが建物が見えてサリーが。


「この谷底が魔国よ、谷底は魔力量が多くて魔族以外は暮らせないわ、皆は大丈夫だと思うけれど、ミンクさんは魔力量が少ないので此れを飲んでおいて下さい。


 ミンクが渡された液体を飲むと。


「ゲエー! 不味くて苦くて吐きそうだわ」


「じゃー、行くわよ」


 サリーがそう言うと、皆の身体が浮かび上がりまるで空中を遊泳するようにゆっくりと谷底に降り始めたのです。


 谷底に降りながらサリーが霧の説明をして、普段は霧を管理する魔人が霧を濃くして上空から谷が見えないようにしているが、今日はトムたちが来るので霧を薄くしていると説明してくれた。





 霧を抜けると谷底は明るく全景が見えると、地上には円形の塔が付いたまるで摩天楼のような高い建物が並んでいたのです。


 その中でもひときわ高い建物の中に吸いこまれて中に入るとそこは広い大広間で、大勢の魔族がいて一斉に。


「英雄バンドウ様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました。姫様もお帰りなさい」


 トムが姓を呼ばれて歓迎されて驚いていると身長が2メータくらいの、サリーと同じ背中から黒い羽根を出して短い1本の角を持った逞しい男性がトムに近づき見た目とは違う優しい声で。


「初めまして私は魔国の王でサリーの父親のアドロバイオバザード・ロラゼパムだ、名前が長いので皆がアドロと呼んでいるから私の事はアドロと呼んでくれ」


「初めてお目にかかります。俺は、フォーク国の国王のトム・バンドウです。宜しくお願い致します」


「君の噂は娘のサリーから五月蠅いほど聞かされているから初めて会った気がしないよ。出来たらこの部屋で君を待っていた皆に簡単な挨拶をしてくれないだろうか」


 トムは何故挨拶をしないといけないのかと思ったが、それが魔族の慣例かと思い挨拶をして。


「皆さん初めまして、俺はフォーク国の王でトム・バンドウと言います。魔国は初めてで習慣が分からず迷惑をかけると思いますが宜しくお願い致します」


トムの挨拶が終わると。


「やっぱり、バンドウ様だ。英雄様の子孫だ」


 と言う声が聞こえてトムは最近何回もバンドウと名乗ると英雄の子孫と言われて関係無いので困っていたのです。


 挨拶が終わると最上階の街が見渡せる部屋に案内されてサリーが。


「最初に高位の魔族に合わせて挨拶をさせてごめんなさい、魔族とエルフ族にとってバンドウは特別な名前なのです。後でお父様が説明すると思いますが」


 遅れて名前が長すぎるので本人の希望通りアドロと呼ぶが、そのアドロが遅れて部屋に来て。


「遅れてすまない、トム君、良く来てくれた、君に話したい事が沢山あるが、まずは座って落ちついて飲み物を用意させているからお茶を飲みながら話そうか」


 飲み物と言われてお土産の酒を思い出してマジックバックから酒を取り出して。


「此れは俺の国の特産品の酒です。酒が好きだと聞いたのでお土産に持ってきました」


「おおー! ありがたい、此の酒がドワーフ族が宝石よりも良いと言った透き通る酒か」


「えっ?何でそんな事知っているのですか?」


「娘から聞いたが、娘は君の事なら何でも知っているぞ、困ったときは耳を触るとか」


「ええー! サリーがそんな事も知っているのですか」


「知らなかったのか、娘は観察していて君に惚れたらしいのだ。娘の言う通り女心に鈍感みたいだな」


 サリーが顔を赤くして。


「お父様―! もう~、何でも言わないでよー・・・・・・・・」


 トムは、サリーが自分に惚れていると聞いて。


「サリーが俺に惚れている? まさか? 冗談は言わないで下さいよ」


トムの隣にいるローランとナナリーナが顔を見合わせて。


「駄目だー、この朴念仁は全く女心を理解しないのね」


と呟いたのです。


 お土産の酒を試飲したアドロ国王が。


「旨い、此の酒は今まで飲んだ酒の中で最高だ。出来たら定期的に購入したいがどうだろうか」


「沢山は無理ですが、良いですよ」


「お父様、それより肝心な話をしてはどうなの」


「うーん、何から話せば良いか・・・・・・トム君の先祖はヒデオ・バンドウではないのか?」


「俺は捨て子の孤児で孤児院で育ったのです。本当は自分が何者かわからないのです」


「そうか、もう何千年も前だが、此の世界を見た事の無いSS級以上の魔獣がS級クラスの魔獣を従えて暴れ回ったのだ」


 その後に話したのは、要約すると当時の人族は魔法を使えず魔獣から逃げ回るだけで、一人の魔法を使える人族が立ち上がり、その人族にエルフ族と魔族が従い魔獣を倒したらしいのだ。


 その人族の名はヒデオ・バンドウと言い英雄と呼ばれたのだが1年後に此の世界が危機に見舞われた時は現れると言い残して突然姿を消したらしい。


 その後世界は平和になったが人族に魔法を使える人が多くなると争いが多くなり最近は帝国が全大陸を支配下に置こうとして侵略を始めたのだ。


 此の世界の危機の時にトム・バンドウと言う英雄と同じ姓の人物が現れてドワーフ国、獣人国、エルフ国を救った。


 此処まで話したアドロ国王が最後に。


「此処まで話したら誰もが君をヒデオ英雄の生まれ変わりか子孫だと思うのも仕方ないだろう」


「勘違するのも分かりますが俺にとっては迷惑な話です」


 大事な話があると思って魔国に来たのに、迷惑な話なのでトムはガッカリしたのです。

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