第18話 ロラタ王都で、その2


 別室は公用の部屋では無く,王族の私的な応接間らしく王都全部が見渡せる部屋だった。


 トムが部屋から王都を見渡すと街は死霊たちに破壊されて半分位が壊れていたのだ。


 側に来たアイオイ国王も街並みを見て。


「トム殿がいなかったら街は全部破壊されて廃墟になり住民は、今頃全員が殺されて死霊になっていたであろうに、改めて礼を言う、この国を救って頂きありがとうございました」


「止めてくれよ、国王に頭を下げられると俺が困るから・・・・・・・・」


 部屋の中には謁見間の壇上にいた王族4人がおりアイオイ国王が皆を紹介して。


「隣にいるが余の奥さんで王妃のシャルルでその隣が王太子のキーソンだ、最後はもう知っておるだろうが王女のローランだ。


 王妃のシャルルが。


「シャルルでございます。この度は王国を死霊の襲撃から守って頂きありがとうございました」


 王太子のキーソンが握手をしてきて。


「キーソンだ、この国を守って頂き感謝申し上げる。ありがとう」


 最後にローラン王女が。


「ローランです。改めて命を救って頂きありがとうございました、お礼申し上げます」


 紹介が終わると国王が。


「余も、型苦しいのは嫌いで、ざっくばらんに話そうではないか、それにしてもトム殿は若いのに凄く強いので驚いたよ。何処で修業したのかな」



 キーソン王太子も畳みかけて。


「父上の言う通りだ。僕は20歳だがトムは何歳なの?」


「俺は、年より老けて見られるが17歳だ」


「ええええー! 本当か? 僕より年上で24歳くらいと思ったよ」


「それは無いよ、そんなに老けて見えるのかな~」


 トムの悲しそうな様子に皆が笑い緊張が解けた所でシャルル王妃が笑いながら。


「オ ッホホ、それだけトムさんがシッカリして見えるという事ですよ」


「お母さまは上手いこと言うわね」


 此れには皆が笑い、ジエルが。


「王妃様の言う通りですよ。いつも一緒にいる私もトム様を年上だと勘違いしますもの」


 流石に前世の年を合わせると45歳のトムは苦笑いをして。


「もう年の話はやめてよ・・・・・・・・」


 トムがそう言うとアイオイ国王が殿呼びをやめて君と呼び。


「所でトム君は今までどんな生活をして来たのだ。良かったら経歴を教えてくれないか?」


 トムは、迷ったが国王一家を鑑定の目で見て善良で良い人ばかりなので前世の記憶を持っている事や「移し獲る」のスキルだけは隠して。


「俺は、捨て子の孤児で生まれつき耳が聞こえなく、言葉も話せず16歳まで孤児院で暮らしました。16歳の時に冒険者にダンジョンに置き去りにされてダンジョンの管理者の魔法使いに助けられました」


 そこまで話して一呼吸おき水を飲んで続きを話して。


「その助けてくれた魔法使いが良い人で、耳を聞こえるようにしてくれ、ゴミスキルと言われたスキルの本当の意味を教えてくれて魔法や戦い方を教えてくれた恩人です。全てを教えた後に寿命が尽きて魔女は俺に自分のスキルを渡してダンジョンが崩れて死にました。俺は習った空間魔法で移転して助かり、移転した深淵の森で色んな人と知り合い暮らしていました。冒険者になる為に街に出て偶然、今回の死霊たちと戦う事になった訳です」


 黙ってトムの話を聞いていたジエルが涙を流してトムを抱きしめて。


「トム様―! ごめんなさい。今までそんな苦労を知らなくて・・・・・・甘えてばかりでごめんなさい・・・・・・・・」


 王族の4人も涙を流しシャルル王妃が。


「苦労したのね。でも、もう大丈夫よ。トムを私の子供だと思って守るからね」


 ローランが。


「トム! 私と結婚して本当の家族になりなさいよ、私はトムを大好きになったわ」


 トムが思いがけない事を言われて目を白黒させて驚いているとアイオイ国王が苦笑いをして。


「トム君は此の王国を救った英雄だから貴族たちも反対はしないだろうが今日、出会ったばかりで結婚は無いだろう、ローラン落ち着きなさい」


「私とした事が・・・・・・恥ずかしいー!・・・・ごめんなさい。でも・・・・・・・・」


 トムは前世のモデルや女優でも見た事の無い、青い瞳で透き通るような少しウエーブがあるブロンドの髪を持つ美少女のローラン王女に大好きと言われて驚いたが、アイオイ国王の言葉にホッとして心の隅では少し残念と思ったのは内緒なのだ。


 ジエルがトムに皆なに聞こえない小さな声で。


「王族と言うから威張っていると思いましが、気さくで思いやりのある優しい人たちなのでビックリしました」


「うん、そうだな、俺も驚いたよ、逃げて帰らなくて良かった」


 その晩は夕食をご馳走になり食後に国王が。


「余の側近とだけとでも合って貰えないだろうか? 今後に今回のような事が起こらないとも限らないので顔見知りになって欲しいのだが」


 キーソン王太子も友達言葉で。


「トム、側近たちも良い人ばかりだから合っておきなよ。人脈は大事だよ」


「うん、分かった。会うよ」




 

 次の日に謁見の間では無く少し広い応接間に案内されると、3人の男性と国王がいて3人の男性が椅子から立ちあがり1人の男性が。


「私は宰相のチンナイ・サガラです。この度は王国を死霊から救ってくれてありがとう」


 2人目の男性が。


「特務機関長カゲライ・ロングイだ。宜しく」


 最後の男性が握手をして。


「わしは筆頭公爵で魔法団長キングイ・ダイバーだ。君のような優れた魔法使いに会えて光栄に思う。一度ゆっくり魔法について話し合いたいと思っているよ」


 トムが自己紹介しようとしたが国王が。


「君の事は皆が知っているから良いよ」


魔法団長キングイが。


「トム君は我が国の英雄で今では有名人だから街に出たら大変だぞ、覚悟しておけよ、ハッハハ」


「え?そう何ですか? まだ昨日の事なのに・・・・・・・・」


 特務機関長カゲライが。


「そりゃー あれだけの流星のような聖魔法を空を飛とびながら放つ魔法使いなど見たのは初めてで、私でさえ信じられずにいたくらいですから王都の助かった住民たちは、英雄どころか神様だと思っているくらいなので誰でもトムさんの事は知っていますよ」


 トムは頭を掻きながら。


「参ったなー! おちおち街も歩けそうも無いな~」

 トムの仕草が面白かったのか皆が笑い、その後1時間くらい談笑して無事に顔合わせが終わるとシャルル王妃とローラン王女が待ち構えていてお茶に付き合わされたのです。


 やっと解放されて部屋に戻るとジエルが何故か拗ねて。


「やっぱり私のような魔物よりローラン王女のような人族の女性が良いのですか」


 女心に鈍感なトムは意味が分からず。


「ん?どういう意味なの?俺がジエルを怒らせるような事をしたのか」


 ジエルは余りにも女心に鈍感なトムに呆れ返ったのです。


 トムはこの先、色んな女性に言い寄られて断るのに困る事になるとは夢にも思わなかったのである。

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