第25話 脱衣所
カシーナの紹介で、後ろ盾となってくれる人と会うことになった。
ただ、忙しい人らしく、実際に会えるのは十日後だという。
実際の営業はその人と会ってからにするということで、それまで開店の準備を進めることに。
特に設備について、風呂屋をやるならあった方が良いという設備があった。
『脱衣所は、やっぱりあった方がいいよな』
大浴場(小)の形態を手に入れて、魔石ポイントで入手できる設備が増えた。
その中に脱衣所というものがあり、風呂屋をやるなら必須に思えた。
「脱衣所は、いる。中に入った途端に大浴場だと、色々と困る」
ルビリアの部屋で相談中なのだが、ルビリアもやはり頷いた。
『脱衣所……十万ポイントか。どうする? せっかく魔石ポイント貯めてるけど、使っちゃうか?』
「……うん。いいよ。十万くらいなら、すぐ貯まるし」
少しためらったのは、魔石ポイントを、俺を人型にするために取っておきたい気持ちからだろう。
俺も早く人型にはなりたいが、設備投資も大事だよな……。人型になるために、魔石ポイントがどれだけ必要になるかもわからない。
自称女神の口振りだと、風呂屋をやってお客さんを増やすのも重要っぽい。人型になることを最優先で、他のことをしないのも良くない気がする。とりあえず脱衣所があれば風呂屋はできるだろうし、これだけは取っておこうか。
『……それじゃあ、獲得するぞ』
魔石ポイントを消費し、脱衣所を入手。
内部を確かめるため、大浴場モードになり、二人で内部を確認。
期待通り、入り口から入るとまず脱衣所が現れた。二十人くらいは同時に利用できる広さがあり、鍵付きのロッカーも設置されている。タオル置き場もあって、自由に取れるようになっているのも便利だ。お風呂屋に一歩前進だな。
『三十分以内に服を脱いでください。さもなくば、外に放出します』
『お? 時間制限が、三十分に増えてる』
「浴室じゃないから、すぐに脱がなくても良くなった?」
『みたいだな。へぇ、これはこれでありがたいおまけ機能』
「なら、もうしばらく服を着たまま中いても大丈夫」
『そ……そう、だな』
「ぷ。ヤキチ、残念そうな声。そんなにわたしの裸を見たい?」
『それは、見たいさ。見たいとも!』
「開き直ってるし。……どうせいつも見てるんだから、ちょっとは我慢してよ。脱いだら、着るのが面倒臭いでしょ」
『そうだなぁ。ここはちっと、我慢するかなぁ……』
ルビリアの瑞々しいお肌は、また今度拝ませてもらうとして。
『ちなみに……受付とかもあるんだよなぁ。ま、これは後でもいっか』
「うん。必要そうなら、手に入れよう」
『だな』
「それにしても……お風呂屋を始めるなんて、ちょっと戸惑うけど、ヤキチと一緒に何かをするのは楽しい」
『そうかそうか。俺も楽しいぞ』
「……ヤキチ、早く人型になってよ。その方が、きっと楽しい」
『そうだよなぁ……』
俺も早く人型になりたい。魔石を集めろと言われてせっせと集めているが、まだポイントが足りないらしい。
「早く、ヤキチに会いたいなぁ……」
不意のことで、驚いたのだけれど。
ルビリアの目から、涙が一滴落ちた。
『ルビリア……?』
「え……」
泣いていることに、ルビリア自身が驚いている。即座に両手で涙を拭い、笑顔を見せる。
「ごめん。なんでもない。平気」
『うん……』
思えば、ルビリアは本当によく頑張ってくれている。魔石集めならばいくらでもできるからと、たくさんのモンスターを狩った。
普通、魔石は換金するものであり、俺に食わせた魔石を換金すれば数千万リンのお金になったことだろう。
それを、俺の人型に関係しているというだけで、全て俺に捧げてくれたのだ。
情熱的な好意を見せてくるわけではないのだけれど、ルビリアの俺への想いは相当に強い。
その想いが……ふと、溢れ出てしまったようだ。
『あの自称女神め……。いつになったら人型になれるんだよ……』
魔石ポイントは、あと百万くらい残っている。これだけ集めてもダメなら、あと何ポイント集めれば良いのか。一千万とかだったら、あの自称女神、ぶん殴るぞ。
『……いや、もしかして、何かを見落としてるか?』
獲得できる設備の中に、俺の人型化に関係しそうなものがあるのかもしれない……? 改めて獲得可能な一覧を見てみるが……。
鏡:1,000
姿見:2,000
体重計:2,000
冷水機:10,000
出入口拡張:10,000
自販機:20,000
受付:30,000
ジャグジー:100,000
トイレ:100,000
休憩所:200,000
マッサージルーム:200,000
遊戯室:300,000
食堂:300,000
サウナ:300,000
岩風呂:300,000
家族湯:300,000
砂風呂:400,000
外観変化:1,000,000
番台:1,000,000
『ん? 番台ってなんだ? 外観変化は前からあったけど、番台は新しいや奴だな。妙に消費ポイントが大きいし……。百万ポイントって……』
「番台? 何それ?」
『番台ってのは、お風呂の中を見張ったり、料金の徴収をしたりする人がいる台だよ。まぁ、日本では番台のある銭湯なんて少なくなってるとは思うが』
「たったそれだけの設備が、百万ポイント?」
『そうなってるな……。ただの台なら、せいぜい一万ポイントくらいの価値しかないように思うが……』
いや、待てよ。
番台って、本当に台のことか?
番台って、ただの台のことを言うこともあれば、そこにいる人のことを言うこともあるんじゃないか?
『番台って……もしかして、ただの台じゃない?』
自称女神の意地の悪いところで、獲得できる設備の詳細は確認できないようになっている。字面から想像するしかない。
ただ、このポイントの高さに、二段構えな設定。怪しい。
どうやら、設備というのは、ある設備を獲得してから、改めて獲得できるようになる設備もあるらしい。自販機や冷水機なんかもそうだ。
風呂屋をやるために脱衣所を増設しようとしなければ、番台は獲得することができない仕様になっている。
『……なんて、意地の悪い』
意地は悪いが、始めから言っていたことか。魔石を集めろと、風呂屋をやれ。ヒントはあったわけね。
高確率で、番台は人型になるためのものだと思う。
獲得してみるべきか。百万ポイントを無駄に消費してしまったら痛いが、これがもし、俺を人型にする設備? だとしたら、百万ポイントを消費する価値はある。
「番台が台じゃなかったら、何になるの?」
『……もしかしたら、人かも』
「え!? 番台を獲得したら、ヤキチ、人になれるの!?」
『可能性はある。あの悪戯小僧みたいな自称女神なら、こんなサプライズを用意していそうな気もする』
「……獲得してみよう。ヤキチが人型になれる可能性があるなら」
『いやでも、百万ポイントだぞ? 何にもなれなかったら、ルビリアがせっかく一ヶ月くらいかけて集めてくれたポイントが無駄になる……』
「無駄になったとしても、せいぜい一ヶ月分だよ。また頑張ればいい」
『そうか……』
俺も、獲得してみたいとは思う。ただ、ルビリアが命がけで集めているポイントだと思うと、浪費はしたくない。
ううん、けど……。
「ヤキチ。やってみて。無駄になっちゃったら、例の自称女神を一発殴っといて」
『……わかった。獲得してみよう』
ドキドキしながら、百万ポイントを消費して番台を獲得する。
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