転生したら『女湯』だった!? シャワールームから始まる異世界生活、後々人型にもなって、純情ラブコメが始まるとは思わなかったよ。

春一

第1話 プロローグ

「あんたを異世界に転生させてやろうと思うんだけどさぁ、女湯と女子トイレ、どっちになりたい?」

「……はい?」


 俺の目の前には、小悪魔がギャル化したみたいな女の子がいる。何故かセーラー服を着ているし、外見年齢も女子高生くらいに見えるが、こいつは何者だろうか? そして、何を言っているのだろうか?

 そもそも、ここはどこだ? だだっぴろい白い空間に、俺とその小悪魔ギャルの二人きり。

 俺はあぐらをかいて座っていて、小悪魔ギャルは目の前で膝を抱えて座っている。白いパンツがちらちらっと見えてしまっているのがあざとい。見えてるんじゃないよ、見せてるの、とか言い出しそうな雰囲気。


「だーからー、女湯と女子トイレ、どっちがいいかって訊いてんの。もう目は覚めてんでしょー? あたしのパンツもばっちり見えてるんでしょー?」

「……やっぱり見せてるタイプのあれか」

「女神様からのサービスってやつよ。んで、どっち? 早く決めてよー」

「……ちょっと待ってくれ。状況が掴めない。何がどうして今の状況になった? ここはどこで、君は誰?」

「ここは、どこでもない場所。あたしはいわゆる転生の女神。ついでに言えば、あんたは七福八吉ななふくやきち、享年二十九歳、旅行会社勤務の会社員、趣味は読書と動画視聴で、童貞」

「……最後は余計だ」

「んじゃあ、もうすぐ魔法使い、とか言っとく? もうこういう言い方も時代遅れ?」

「それは知らんけど……。ってか、俺、死んだの?」

「覚えてない? 電車で痴漢してるところを取り押さえられて、駅員に連れていかれそうになったじゃん。そんで、線路に降りて逃げようとしたけど、電車に轢かれて死んだ」

「ええ!? 待って! 俺、痴漢なんてした覚えないんだけど!? それは絶対嘘だろ!」

「うん。嘘」


 にははっ! と楽しそうに笑う自称女神。犯罪行為をしたわけではないとわかって安堵するが、タチの悪い冗談を言われたことに腹も立つ。


「……変な冗談はやめてくれ。今の時代じゃ、冗談にならないかもしれんし」

「あー、そう? 最近じゃ、テレビで裸のねーちゃんも出てこないんだっけか?」

「最近っていうか、それは結構前の話のような気がする」

「そうだっけ? んー、数十年くらい前は最近って感じだから、なんかよくわかんないねー」

「ああ、そう……」


 こいつは本当に女神か何かなのか? まぁ、そうだとしても、そうじゃなかったとしても、今は問題ではない気がする。先に確認すべきは、俺の死因、か?


「……で、俺ってなんで死んだの?」

「トラックに轢かれて」

「それは、本当?」

「うん。まぁ、ついでに言えば、轢かれそうになっていた子供を助けて、自分だけ死んじゃったって感じ」

「……俺がそんな英雄的なことをするとは思えないが?」

「とっさのことだもん、普段しないことだってしちゃうよ」

「そう、なのかな。けど、それが本当だとしたら、俺も立派なもんだな」

「んねー。まぁ、死因は気にしないでよ。今回の転生には何の関係もない。こんなところでオリジナリティを出す必要もないしさ」

「なんのオリジナリティだよ」

「まぁまぁ、そこは気にしないでいいってば。

 とにかく、あんたが転生するのは、あたしがたまたまあんたを拾ったただけで、こんな素晴らしい行いをした人に救いをあげなければ! とか思ったわけじゃない。いいことすりゃ死後に報われるなんてげんそーげんそー」

「……まぁ、うん。そうかぁ……」

「でさ、早く決めてよ。女湯と女子トイレ、どっちになりたい?」

「その選択肢の意味がわからん。どっちも無機物じゃん」

「大丈夫。他所では自販機になったっていう実績もあるし、らくしょーらくしょー」

「自販機より意味不明なものに転生させようとするなよ……」

「いいじゃんいいじゃん。で、どっち?」

「その二択なら女湯を選ぶさ。けど、全くイメージが湧かない。女湯に転生って、どういうこと?」

「それはなってからのお楽しみっつーことで。しかし、意外だなぁ。女子トイレになりたがるかと思ったのに」

「なんでだよ。トイレになんてなりたくないだろ」

「そう? あんたの検索履歴からすると、女湯なんて刺激が足りないとか言い出すと思ってたんだけどなぁ」


 自称女神の右手に、随分と馴染みのあるスマホが出現。それをすいすいとスワイプしている。


「わ、ちょ、おまっ、何を見ている!?」

「お察しの通りだけど?」

「やめろ! プライバシーの侵害だ!」


 スマホを取り上げようとするが、急に体が動かなくなる。ちくしょうめ。


「そんなつまんねーこと言うなって。現世じゃあるまいし。おほっ、やっぱりなかなかエグいの見てんねぇっ。あんた、本当に女湯でいいの? ス……なんとかに興味はないわけ?」

「そんな趣味はねぇよ! 見る専だ! って、変なこと言わすな!」

「にはは! ま、女湯の方が色々と幅広く活動できるし、こっちとしちゃ面白いかな」

「……何が面白いんだよ」

「そりゃー、あんたを転生させたら、転生後の様子をじっくり観察させてもらうからな。なんにも動きがなければ退屈でしょ」

「……覗き魔め」

「おかげであんたは第二の人生を生きられるんだ。あたしの変態性に感謝しな。

 それとも、転生なしでこのまま消滅したい? あ、天国とか地獄とかないから、ガチで消滅するだけね。あたしはそれでもいいよ? 別の奴を探すだけだし」


 軽い口調から察するに、本当に俺を選んだことに大した意味はないのだろう。俺がぐだぐだ言っていたら、せっかくの転生の機会を失ってしまうかもしれない。

 二十九年。それなりに生きてきたとしても、まだまだやりたいことはあったんだ。このまま消滅なんてしたくない。


「……このまま消えるのは、嫌だ。……もう、なんでもいい。俺はとにかく女湯に転生するんだな? 言ってて意味わからんけど」

「そういうこった。細かいことは現地で学びな。そんじゃ、せいぜい楽しませてくれよ? 頑張ってくれたら、まぁ、何かしらご褒美くらい用意してやるよ」

「それはどーも。ってか、転生した俺に何をさせたいんだ? 世界でも救ってほしいのか?」

「いんや? そんな堅苦しいこと考えないでいいよ。あんたがしたいことを、したいようにすればいい。

 世界を救たければ救えばいいし、滅ぼしたければ滅ぼせばいい。あたしはそれを眺めてきゃっきゃと笑ってるだけさ」

「……あんたの人柄がよくわからん」

「あたしを理解する必要はないよ。ま、やることは勝手に決めてもらって構わないけど、男なら桃源郷でも目指せばいいんじゃね? 綺麗なねーちゃん一杯集めりゃ、それだけでできあがんだろ?」

「桃源郷……。女湯と掛け合わせるとなんて桃色な響き……」

「あっはっは。一瞬でその気になってら」

「いや、でも、俺、男だし、色々と倫理的にまずい気が……」

「だいじょーぶだいじょーぶ。今は男だけど、転生したら性別なくなっから。女に転生した元男が、女湯入るのだってふつーだろ?」

「え、性別がなくなる? え?」

「んじゃ、ちっと長くなったけど、プロローグはここでおしまいだ。ばいびー」


 自称女神がひらひらと手を振る。その姿が薄れていき……いや、俺の意識が薄れているのか?

 世界が暗転し、俺は意識を失った。

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