転生したら『女湯』だった!? シャワールームから始まる異世界生活、後々人型にもなって、純情ラブコメが始まるとは思わなかったよ。
春一
第1話 プロローグ
「あんたを異世界に転生させてやろうと思うんだけどさぁ、女湯と女子トイレ、どっちになりたい?」
「……はい?」
俺の目の前には、小悪魔がギャル化したみたいな女の子がいる。何故かセーラー服を着ているし、外見年齢も女子高生くらいに見えるが、こいつは何者だろうか? そして、何を言っているのだろうか?
そもそも、ここはどこだ? だだっぴろい白い空間に、俺とその小悪魔ギャルの二人きり。
俺はあぐらをかいて座っていて、小悪魔ギャルは目の前で膝を抱えて座っている。白いパンツがちらちらっと見えてしまっているのがあざとい。見えてるんじゃないよ、見せてるの、とか言い出しそうな雰囲気。
「だーからー、女湯と女子トイレ、どっちがいいかって訊いてんの。もう目は覚めてんでしょー? あたしのパンツもばっちり見えてるんでしょー?」
「……やっぱり見せてるタイプのあれか」
「女神様からのサービスってやつよ。んで、どっち? 早く決めてよー」
「……ちょっと待ってくれ。状況が掴めない。何がどうして今の状況になった? ここはどこで、君は誰?」
「ここは、どこでもない場所。あたしはいわゆる転生の女神。ついでに言えば、あんたは
「……最後は余計だ」
「んじゃあ、もうすぐ魔法使い、とか言っとく? もうこういう言い方も時代遅れ?」
「それは知らんけど……。ってか、俺、死んだの?」
「覚えてない? 電車で痴漢してるところを取り押さえられて、駅員に連れていかれそうになったじゃん。そんで、線路に降りて逃げようとしたけど、電車に轢かれて死んだ」
「ええ!? 待って! 俺、痴漢なんてした覚えないんだけど!? それは絶対嘘だろ!」
「うん。嘘」
にははっ! と楽しそうに笑う自称女神。犯罪行為をしたわけではないとわかって安堵するが、タチの悪い冗談を言われたことに腹も立つ。
「……変な冗談はやめてくれ。今の時代じゃ、冗談にならないかもしれんし」
「あー、そう? 最近じゃ、テレビで裸のねーちゃんも出てこないんだっけか?」
「最近っていうか、それは結構前の話のような気がする」
「そうだっけ? んー、数十年くらい前は最近って感じだから、なんかよくわかんないねー」
「ああ、そう……」
こいつは本当に女神か何かなのか? まぁ、そうだとしても、そうじゃなかったとしても、今は問題ではない気がする。先に確認すべきは、俺の死因、か?
「……で、俺ってなんで死んだの?」
「トラックに轢かれて」
「それは、本当?」
「うん。まぁ、ついでに言えば、轢かれそうになっていた子供を助けて、自分だけ死んじゃったって感じ」
「……俺がそんな英雄的なことをするとは思えないが?」
「とっさのことだもん、普段しないことだってしちゃうよ」
「そう、なのかな。けど、それが本当だとしたら、俺も立派なもんだな」
「んねー。まぁ、死因は気にしないでよ。今回の転生には何の関係もない。こんなところでオリジナリティを出す必要もないしさ」
「なんのオリジナリティだよ」
「まぁまぁ、そこは気にしないでいいってば。
とにかく、あんたが転生するのは、あたしがたまたまあんたを拾ったただけで、こんな素晴らしい行いをした人に救いをあげなければ! とか思ったわけじゃない。いいことすりゃ死後に報われるなんてげんそーげんそー」
「……まぁ、うん。そうかぁ……」
「でさ、早く決めてよ。女湯と女子トイレ、どっちになりたい?」
「その選択肢の意味がわからん。どっちも無機物じゃん」
「大丈夫。他所では自販機になったっていう実績もあるし、らくしょーらくしょー」
「自販機より意味不明なものに転生させようとするなよ……」
「いいじゃんいいじゃん。で、どっち?」
「その二択なら女湯を選ぶさ。けど、全くイメージが湧かない。女湯に転生って、どういうこと?」
「それはなってからのお楽しみっつーことで。しかし、意外だなぁ。女子トイレになりたがるかと思ったのに」
「なんでだよ。トイレになんてなりたくないだろ」
「そう? あんたの検索履歴からすると、女湯なんて刺激が足りないとか言い出すと思ってたんだけどなぁ」
自称女神の右手に、随分と馴染みのあるスマホが出現。それをすいすいとスワイプしている。
「わ、ちょ、おまっ、何を見ている!?」
「お察しの通りだけど?」
「やめろ! プライバシーの侵害だ!」
スマホを取り上げようとするが、急に体が動かなくなる。ちくしょうめ。
「そんなつまんねーこと言うなって。現世じゃあるまいし。おほっ、やっぱりなかなかエグいの見てんねぇっ。あんた、本当に女湯でいいの? ス……なんとかに興味はないわけ?」
「そんな趣味はねぇよ! 見る専だ! って、変なこと言わすな!」
「にはは! ま、女湯の方が色々と幅広く活動できるし、こっちとしちゃ面白いかな」
「……何が面白いんだよ」
「そりゃー、あんたを転生させたら、転生後の様子をじっくり観察させてもらうからな。なんにも動きがなければ退屈でしょ」
「……覗き魔め」
「おかげであんたは第二の人生を生きられるんだ。あたしの変態性に感謝しな。
それとも、転生なしでこのまま消滅したい? あ、天国とか地獄とかないから、ガチで消滅するだけね。あたしはそれでもいいよ? 別の奴を探すだけだし」
軽い口調から察するに、本当に俺を選んだことに大した意味はないのだろう。俺がぐだぐだ言っていたら、せっかくの転生の機会を失ってしまうかもしれない。
二十九年。それなりに生きてきたとしても、まだまだやりたいことはあったんだ。このまま消滅なんてしたくない。
「……このまま消えるのは、嫌だ。……もう、なんでもいい。俺はとにかく女湯に転生するんだな? 言ってて意味わからんけど」
「そういうこった。細かいことは現地で学びな。そんじゃ、せいぜい楽しませてくれよ? 頑張ってくれたら、まぁ、何かしらご褒美くらい用意してやるよ」
「それはどーも。ってか、転生した俺に何をさせたいんだ? 世界でも救ってほしいのか?」
「いんや? そんな堅苦しいこと考えないでいいよ。あんたがしたいことを、したいようにすればいい。
世界を救たければ救えばいいし、滅ぼしたければ滅ぼせばいい。あたしはそれを眺めてきゃっきゃと笑ってるだけさ」
「……あんたの人柄がよくわからん」
「あたしを理解する必要はないよ。ま、やることは勝手に決めてもらって構わないけど、男なら桃源郷でも目指せばいいんじゃね? 綺麗なねーちゃん一杯集めりゃ、それだけでできあがんだろ?」
「桃源郷……。女湯と掛け合わせるとなんて桃色な響き……」
「あっはっは。一瞬でその気になってら」
「いや、でも、俺、男だし、色々と倫理的にまずい気が……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。今は男だけど、転生したら性別なくなっから。女に転生した元男が、女湯入るのだってふつーだろ?」
「え、性別がなくなる? え?」
「んじゃ、ちっと長くなったけど、プロローグはここでおしまいだ。ばいびー」
自称女神がひらひらと手を振る。その姿が薄れていき……いや、俺の意識が薄れているのか?
世界が暗転し、俺は意識を失った。
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