第31話 時は流れ

あれから10年が経ち、24歳になった僕は、大阪に住んでいる。

中学2年から不登校になった僕は、大検を受け、なんとか大学に受かった。

京都の大学に入り、その後は大阪で就職した。


今でもあの事故のことを引きづり、心を閉ざし、人とは深く関わらない。

東京ではなく、関西に来たのは、地元とは距離を置くことで、あの事故を少しでも忘れたかったからだろう。


僕は、一週間ほど前に、2ヶ月ほど付き合った彼女にフラられた。

今は、朝起きてから、涙が目から自然に出ていることに気がついた。

天気の良い青い空を見ていたら、なかなか涙が止まらない。

泣くことなんて、この10年で久しぶりだった。


夢の中では、昔のことと別れた彼女のことがごちゃごちゃに重なっていた。

心臓の内側からたくさんのどす黒い針を刺されているように、胸が苦しい。

何も感じなくなっていたはずなのに。

この苦しさは、石川さんを失った時以来だろう。


僕はまだ、生きているんだなと思う。

なんで僕だけ生きているんだろう。


「あなたは、変わらない」

フラれた彼女から言われたことだ。


彼女のことは好きだったが、心を閉ざした僕は、本気で他人とは向き合えなかった。

もう自分の心がどこにあるかも分からなくなっているのに、他人の心はもっと分からなかった。


自分では、普通を演じているつもりでも、深い関係になれば、僕が心を開けないのは分かってしまう。

彼女は、それに気づいたのだろう。


僕は変わらない。

おそらくそうだろう。

10年前のあの時に、ずっと縛り付けられている。

この10年で数人付き合った女性とは、みんな同じような理由で別れた。


僕は変わらない。

これでいいのだろうか。

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