【不条理ホラーアクション!】御神籤 凶の未発生事件簿

羽暮/はぐれ

ep.0 登場人物を紹介します

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☆☆☆とうじょうじんぶつしょうかい☆☆☆


 これはK県某市で起きた殺人事件を追うミステリー小説です。


>>御神籤 凶(おみくじ きょう)

 28歳女性。なんでも屋。この小説の視点人物。


>>ZERO和尚(ぜろ おしょう)

 年齢不詳男性。無職。この作品の被害者であるディーノ六丸を殺害した犯人。


>>ディーノ六丸(でぃーの ろくまる)

 24歳男性。市役所職員。本日未明、コンビニからの帰り道でZERO和尚に殺害された。事件の直前、ZERO和尚と何者かの金銭取引を目撃していた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「なんだこのサイトは」


 なんでも屋を営む女、御神籤おみくじ きょうは、タヌキ駆除の仕事で得た『ピーナツ農園のピーナツバター』を親指で舐めとりながら、モニターに表示される文字を眺めていた。

 御神籤がアクセスしているサイトは、いわゆるディープウェブ、深層ウェブと呼ばれる、通常の検索ではヒットしないウェブサイトの一つだ。サイトの名前は『東条人物商会とうじょうじんぶつしょうかい


 サイトへのアクセス経路を確保した助手の情報によると、どうやら個人情報の収集・売買を目的とする違法サイトらしい。そのトップページに自分の名前が載っていたので、御神籤はやや驚いた。やや、というのは風呂場にナメクジが出現した時くらいの驚きであって、この段階ですら彼女は身の危険を案じてはいなかった。

 

 起き抜けのピーナツバターに胃のもたれを感じつつ、御神籤はグルコースを消費して思考する。

「小説だの作品だのと書いてあるが、そういう趣向のサイトなのか?」


『登場人物名簿』と書かれたリストをクリックすると、青いゴシック体で記載された人名が120人×562ページも出てきてげんなりする。適当に選んだ『豊胸ラビットフォックス』の欄には「57歳女性。密猟したウサギとキツネを常食する異常者。死亡済み」と書かれている。世の中にはとんでもない奴がいるもので、こうした人々がすでに死んでいるという事実は御神籤の心を少しだけ安らかにした。


「だとすると妙だな」

 

 御神籤は助手にLINE通話を掛けながら呟いた。「はいこちら加速童アクセルどう落夢らくむです」


「今日もハッピー御神籤 凶だ。落夢、例のサイトに私の名前が載っていて、他のやつらには無い記述がされている」


「へえ、そら、大変なことで。私も今まさに赤飯を炊こうと思ってたらですね、えええっ、この小豆の炭水化物、61.9g?!」


「というのも私の情報はろくに無いんだが、小説の視点人物などと書いてあって妙なんだ」


「なるほどですね。そのサイト、プレミアム会員というのがあるのでそれに入ったらどうですか。より詳細な人物情報が「ありがとう」」


 通話終了ボタンを10度連打してスマホを衣服の山に投げ、ページの右上でキラキラと光る星のマークをクリックする。


☆☆☆☆料金プラン☆☆☆☆

・スタンダードプラン:2800.00$

 すべての登場人物の住所、身分証明書、移動経路、一週間ごとの生活記録をご覧いただけます。


・プレミアムプラン :4900.00$

 スタンダードプランの内容に加え、各人物の部屋に搭載したカメラから、生配信をご覧いただけます。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「なるほど『ピンポーン!』」


 インターホンが鳴ったので御神籤は応答した。


「はい、今日もハッピー御神籤 凶です」「本気蜂マジバチピーナツ農園さんから、郵便です」「わかりました」


 タヌキ駆除の依頼主からだ。ピーナツバター1年分という自殺幇助じみた報酬を受け取ったばかりだが、まだ何かあるのだろうか。ピーナツアレルギーという事にしようかな。


 ところで、御神籤の住むアパートのインターホンにはカメラが付いておらず、ということは郵便屋を装って銃の乱射魔などが来ても気づけないということなのだが、今日がまさにその日だった。


 パァン。


 この音を聞いたのはいつぶりだろうか。高校の陸上部での活動以来ではなかろうか。記録の度にコンマ以下まで同じ秒数が出るのでイラついて退部したんだった。などといろいろ考えて、御神籤はその凶弾をかわすことに決めた。

 

「ピーナツバター三カ月消費」


 御神籤の体には洛臓らくぞうと呼ばれる食物を半永久貯蔵する内臓があり、有事の際にそれらカロリーを消費することで人智を超えた動作を可能とする。

 銃弾を超える速度で身体を動かし、勢いのまま御神籤は下手人の豊満な胸を叩いた。その一撃で女殺人未遂犯は心停止し、拳銃をひしと握り込んだ状態で玄関先に転がる。


「なんだ、こいつ、使い手じゃなかったんだ。カロリー損したな」


 御神籤は死体となるか否かの瀬戸際の女を引きずって、玄関を閉め、超人化した視力により自室の衣服の山に埋もれていた小型監視カメラを発見して摘まみ上げた。


「じゃあこいつら殺すか」


 御神籤が右目をこれ以上ないほどカメラのレンズに接近させて覗き込むと、その光景を視聴していたプレミアムプラン会員たちの眼球が一様に破裂。『東条人物商会』のデータサーバーは特定不能なDoS攻撃と見られる現象で一斉にダウンし、マシンが次々と発火した。

 LINE通話のコールが鳴る。


「今日もハッピー御神籤 凶ですが」


「落夢ですけど! ちょっと! 殺人事件の情報が載っていたサイト潰れちゃったじゃないですか」


「ああごめん、やっちゃった。落夢、キレイキレイ同好会の人らは呼べる?」


「はぁ、連絡してみます。無理だったら自分で掃除してくださいよ「ありがとう!」」


 通話終了ボタンを10度タップして、心停止から2分ほど経過した女の上に座る。「どーして、こうなるかなぁ」


 彼女の名前は御神籤 凶。

 生まれながらに人智と人理を超越した女。その万能の能力がゆえに、彼女は通称「なんでも屋」と呼ばれていた。

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