ep.15 ハッシーアイランド
海の上に、自然の豊かな丸い島が見えてきた。
島の中心には、一本の川と繋がった湖がぽっかりと広がっており、湖上にはガレオン船らしき大型帆船が浮いている。
湖畔にはマングローブが生い茂り、その外周から浜辺までをフタバガキ、浜辺はヤシの木で彩られた熱帯雨林らしき植生だ。
一見して未開拓のようだが、ところどころ森林が伐採されて、ログハウスの集落が点在している。
「ちょうどいい。近場で話を聞いてみようぜ」
「ゴモモモ」
上半身が砂に刺さった落夢を引き抜き、方角を確かめる。ここは島の南端にあたるビーチだ。集落は北東、北、北北西にあって、一番手近なのは北東にある。
「レッツラゴー」
「内臓の隅々まで砂、呑んでもた。水が欲しい」
「マングローブがあるってことは、この川は汽水だぜ。井戸とか探そう」
川に沿って北上すると、すぐに集落が見えた。
「あのー!」
静かだ。気配もない。井戸があったので落夢を突き落として、鍵のないドアを何軒かノックする。
「ダメか。お邪魔します」
シカ革のカーペットと、ベニヤ製のテーブルとイス、それだけの家だ。
電化製品はなく、気候のおかげで暖炉なども必要ないので異様に広々としている。ただ休むだけの家、といったところか。
一つだけ衣装棚があったので、少し躊躇したが開けてみる。
「わーっ!」
外から落夢の声が響いて、私は棚の中に一つだけあったそれを手に取って家を出た。
「どうした?」
「井戸の中で、なんか栽培してるみたいなんですけど……これ、
「なんだと?」
落夢が持ってきたそれは、ギザギザとした細い葉が5枚、手のひらのように広がった青葉だ。大きく育っており、一枚あたり22cmといったところか。
「マリファナです」
「げーっ」
「めっちゃ育ってます」
「げーっ!」
井戸底は入り口よりもはるかに広く掘り抜いてあり、中には青々と茂る大麻たちが、電池式のライトに照らされて収穫を待っていた。
「おい、ここって秘密のハッパ栽培地なんじゃねえのか」
「ふぉふぉ、その通り」
ジジイの声に振り向くと、家のそばにある薪置き場から、ひょっこりと顔を出す
「なんだなんだぁ? 私と凶さんは負けねえぞっ、コラッ、カスがっ」
「落ち着きなされ……我々は来る者を拒まない。我々は人の世の愛を信じておるのです」
「愛だぁ?」
マリファナの葉を投げてやる。
「悪いがジイさん、あんた怪しい事この上ないぜ。何か薬でハイになってスゴイ淫乱なことをして愛と言ってるんだろ」
「……ハァ――ッ。疑いこそ、この世でもっとも悲しきことよ……ところで、私たちについてもっと知ってもらいたい。付いてきなさい」
誰が行くんだよ、と思ったのも束の間――
「誰が行くか、バカっ!」
「待て、落夢……気になることがある。行ってみよう」
「?? いいっスけど……危険じゃないっスかねえ」
「私らが負ける訳ないだろ」
それもそうか、と言って落夢は付いてくる。この様子だと気付いていないようだが、あのジイさんのうなじに……何か、樹皮のような物がはりついているのが見える。
それに、あの湖に浮いていた船も気になる。
もしかすると財宝などが眠っているかもしれず、ひと夏の思い出として、幽霊船の宝をゲットするなんて最高ではないか。
「はは、ハハハハハ。なんだかハイになってきた」
「吸ってないっスよね? 心配だなあ」
ビュウ。
スコールの到来を告げる、湿った風が吹いていた。
(つづく)
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