大変申し訳ございません。ヤマダさまは聖女さまではありませんでした!

仲町鹿乃子

第1話

「大変申し訳ございません。ヤマダさまは聖女さまではありませんでした!」


 神殿の近くにある宿舎の一室で、椅子に座るわたしに金髪の若い男性が、勢いよく頭を下げてきた。


「ちょっと、なに言ってるの? わたし、聖女なんでしょう? だから、この世界に召喚されたんでしょう?」

「それが、こちらのミスでございまして。人違いといいますか……」

「人違いで召喚? そんなことってあるの?」

「お恥ずかしながら、人違いだけでなく、聖女さまの隣にたまたまいらしたご友人まで一緒に召喚してしまったなど、召喚ミスには様々な事例がございまして」


 男性が眉を八の字に下げる。

 ……なんてことだ。

 これはいよいよ本当らしい。


 2日前だった。

 わたしが仕事から自分のアパートに帰宅すると、古ぼけた部屋にこの金髪の男性――リックがいた。

 朗らかに笑いかけてきたリックを、わたしはすぐさまショルダーバッグに常備している防犯スプレーで撃退した。

 治安の悪さとアパートの安さは比例している。

 いざというときに持っていたスプレーが、まさか自分の部屋で役立つなんて。

 わたしは転がるリックを足で踏み抑えつつ、警察に電話を入れようとした。

 と、そのとき。

 リックがなけなしの力を振り絞って、アパートの壁に「聖女さま召喚のご案内」の映像を映し始めたのだった。

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