第7話 事後処理
目を開くとファルチェの顔があった。
「気分はどう?」
「体から何もかも抜けてすっからかんになった感じ」
「そりゃそうだ。そのちっこい体にあれほどの力がおさまっていたなんて思わなかったよ。君、何者?」
「訳ありの初心者ハンターということで。それであの虫たちはどうなったの?」
「自分の目で見るといいよ」
「無理。動けない。力尽きた」
「しょうがないなあ」
背中を支えられ抱き起こされると、慌ただしく働く人たちが数多くいた。百人どころじゃない。ファルチェの言っていた応援が来たのだろう。
彼らの中心には半分削られた女王クラゲ、そしてそばには積み上げられた無数の虫の死体があった。
「今、本部を置いて一帯を調査している。まだ最終結果はでていないけれど全域を調査中の搜索班によると、今のところ生きた虫は発見していないってさ。ほぼ駆逐できたと思ってもいいんじゃない。ありがとう、君のおかげだよ」
ぽんぽんと背中を叩きながら、ファルチェは微笑した。この力が誰かの役に立ったのは初めてのことで、むず痒い気持ちになる。嬉しさが言葉にならなくて頬をポリポリかいていたら、ファルチェはじっとそんな俺のことを見ていた。
「俺の顔に何かついている?」
「いいや? 君の髪、普段は砂色なのに雷撃を放つ時は金色に光るんだね。また見てみたいな。それにまだちょっと周辺調査が必要でね。君にもぜひ手伝ってもらいたいんだけれど、どうかな?」
「そこまで言うなら、ちょっと付き合うぐらいなら……いいけれど」
「ありがとう! じゃあ、口を開けて?」
どうして口を?と思いながら開けると何か放り込まれた。とたん、口の中に強烈な苦味が広がる。あまりの苦さに反射的に吐き出そうとしたら、ファルチェに口を抑えつけられ阻まれた。
「んんッ……!」
舌の上に乗っかる得体の知れない固形物を飲み込みたくないと必死に顔を振るが、ファルチェの手は離れない。段々と口の中に唾液があふれてきて、こぼれそうになった時に、ファルチェは子猫をなでるように喉をこちょこちょなでてきた。
「ふぐっ!?」
不意のくすぐったい刺激に、ゴクリと飲んでしまった。俺が喉を動かしたのを確認するとファルチェはようやく口から手を離した。
「何を食わせた!?」
「僕お手製の特製兵糧丸だよ。体力も真力もたちまち回復する代物さ。この地域でヨロイザルやムドムドのように感染された個体が他にまだいないか調査しないといけなくてね。時間との戦いで、最低でも一週間はほぼ寝ずのぶっ通しの作業になるから頑張って?」
ブンブン首を振る。ちょっとぐらいならいいと思ったけれど、あまりに過酷すぎる。周囲の人間の悲壮感漂よう雰囲気をようやく感じ取り、誇張でもなんでもないことが伺える。あと、今食べたばかりの兵糧丸の効果がすでに効き始めて力が湧いているのが怖い。とんでもない成分が入っているのは間違いない。
「男に二言はないよ?」
両肩をつかまれ、ファルチェが笑う。その目は笑っておらず、覚悟を決めろと言っていた。
こいつに初めて会った時にとんでもない輩に捕まったのではないかと思ったが、その予感が間違っていないと今更ながら確信したのだった。
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