第2話 葬儀屋さん、異世界に召喚される!?①
「いや~。遠路はるばる遠いところまでよくぞおいで下さった。
お待ちしておりましたぞ、三蔵法師殿」
明朗な声が、真っ白な部屋の中を一組の男女に向けて掛かる。
ブルーゴールド色に輝く『
ふたりは、部活動へ向かうところだったはず。
ホットヨガ部と文学部という、会社に2つしかない部活動。
しかし、どちらもこのような部屋ではない。
振り返り見るも、先ほど通った通路はない。
「・・・・・・・・・ハァ?」
大きな間をとったあとで、
隣に立っていた女性が男性のスーツの
「あの、
寒気を殺して、
「いや、まったく知らん。
莉拝は手のひらを大きく左右に振って、心咲に問い返した。
仮面の男性の前で、ふたりは禅問答を繰り返していた。
「ここは神様の御膳である! 静粛にされよ!」
凛とした声が通る。目の前の男性だけが、この部屋にいるのではなかった。
ふたりがそちらに目を向けると、仮面の男性へ頭を垂れているオレンジ色の髪をした青年が片膝をついて、敬意を示していた。
紫色の
爺さんのようにしゃがれた声の男性は本当に『神様』なのか?
そもそも、ここはどこなのか?
神様と呼ばれた仮面の男性が、ほっほっほ、と笑って近づいてくる。
「そちらは、三蔵殿の正妻・・・・・・。
いや、べっぴんじゃから『愛人』さんかのぉ?」
心咲の顔を近くで、マジマジと観察して出たセクハラ発言。
ここが『カースト制度で区切られた世界』であったとしても、セクハラは良くない。
ふたりは、再び顔を見比べてみる。
いまいちピンと来ない。莉拝たちにとって、あまりに情報が少なすぎた。
「えっ、と。ちょっといいか?
さっきから、三蔵だの愛人だのと、いったい何の事なんだ?」
軽口を叩くような感じで質問する莉拝をみて、ギョッとする心咲。
「主は、インドから教典をもたらし、漢訳をした三蔵殿ではないんじゃな?」
「ちがう」 切り捨てるように即答した。
「あちゃ~。・・・・・・、わし、またやってしもたんか・・・」
顔が見えないのは不気味だが、声のトーンからして落ち込んでいるようだ。
「唐の時代は、1000年以上も昔の話だな。残念だったな。
さぁ。わかったら、俺たちを元の場所に帰せ」
莉拝は、クールでちょっと意地悪なツン
突き放すような物言いに、ギョッとする心咲。
橙髪の紫眼に眉間を射抜かれるように、恐怖で表情筋が固まった。
恐ろしさのあまり、心咲が莉拝のスーツの
莉拝は素早く察した。彼女は妙に勘が鋭いことがあったのだ。顧客の虚言癖や大口取引を偽った詐欺行為を教えてもらったことが何度かあった。一時は、超能力者ではと疑ったことも。
どうやら営業モードに切り替えた方が良さそうな雰囲気だな、と理解した。
「あぁ。なんだ。
神様はどういった理由で、三蔵法師を呼び出したかったんだ…ですか?」
「ほほぅ。豪胆じゃな。
では、話を聞いてくれるか? 青年よ」
「もちろん・・・です」 ぐいと顔を近づけられると、仮面が気持ち悪いな。
「実はじゃな。ちと、困ったことになっておっての。
わしが受け持つ惑星がいま、疫病による人類滅亡の危機に陥っとるんじゃ。
そこで、わしが考え付いた策がじゃな。
かの有名な聖人、三蔵殿をこちらの世界に『転生』させること。
『風葬』が如何に危険であるかを広めてもろてじゃなぁ、
正しい『葬儀』を広めてもらおうと思ったんじゃよ」
(なんだ、そんな事か) 莉拝は安堵した。
葬儀社に勤めて8年の実績が、こんなところで生きてこようとは。
「いいぜ、神様。ここからは、商談といこうじゃないか!」
莉拝は、会心の笑みを見せた。
まさか、布教活動とやらが 何十年 も掛かることになろうとは、
このときは まだ 夢にも思ってはいなかった。
観世 莉拝。28歳。
これから始まる『英雄活劇』が、ゆっくりと幕を開ける―――。
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