第87話 オールラウンダー


 ――コンコン


 表彰式の準備が出来ましたのでリュート選手と皇帝陛下もご準備の方をお願い致します。


 父上と今後について話しているとドアがノックされ、向こうの方で誰かが喋る。俺のことは皇族ではなく、1選手として扱ってくれるらしい。いいね。


「はーい、分かりました」


「うむ、了解した」


 そう返事すると、伝令役の人足音が遠ざかって行った。


「父上は準備と言ってもここにいるだけですよね」


「そうだな。お前は控え室の方であろう?」


「まぁ。それでは行ってまいります」


「うむ」


 ◇

 ――控え室


「ではここでお待ちください」


「はーい」


 伝令役の人が一緒に控え室まで送ってくれた。ちなみに、もう仮面はしていない。1回外したし、つけてても外しても同じならつけない方がいいかなって。


「ようやく来たか」

「ちょっと遅いんじゃないか?」

「どれだけ待たせんだ。アニキ」


 控え室にはウェイス、ファイ、レントがいた。順位が決まっているトップ4のみが表彰されるのだ。


「ちょっと父上と話していてな。俺が遅れたくらいで始まるのが遅れるわけじゃないんだ。許してくれ」


 とりあえず謝罪だけはしておく。


「まぁ、いいけどよ」

《それでは、今大会ベスト4の方々に入場して頂きます!どうぞ!》


 レントの声と重なって司会の声が入る。


「そんじゃあ、行くか。どういう順番でいく?」


「そんなん頭からだろ」


 俺の問いにレントが答える。


「おっけー」


 と、言うわけで俺、レント、ウェイス、ファイの順番で1列で入場することにした。


「「「「うおぉぉぉ!」」」」


 控え室のある建物から出ると、観客たちの喧騒が聞こえる。


 武舞台の真ん中に表彰台がある。俺たちから見て左から4321位の順番で立ってくれと言わんばかりの高低差。


 1位2位3位の表彰台には前に階段的な段差があるが、もちろん4位の台から踏み台式に1位の台に乗る。



《さて!全選手揃ったとの事で表彰式を始めます!》


「「「「わあぁぁぁぁ!」」」」


《まずは!第4位!Sランク冒険者ファイ・シュレック選手!》


「此度は4位という成績で満足していないようであるが、余はファイ・シュレックの健闘を称える。優勝経験のある同選手としては不満な結果となったであるかもしれないが、十分優秀な成績だ。誇るように」


 どうやら、司会の紹介の後に父上が賞賛する形で表彰するらしい。


《続いて、第3位ウェイス・ハーニッシュ選手!》


「ウェイス・ハーニッシュも、同様に優勝経験があるが、3位でも十分にすごい結果だ。準決勝での戦いは自分の力を見せるだけでなく、観客をも魅了した素晴らしい結果だ。誇るように」


 どうやら、誇るように、って最後に言うらしい。


《ありがとうございます!それでは!惜しくも決勝で敗れ2位となったレオンハルト・フォン・スターク選手!》


「まずはよくやった。余の息子がこのような大会で上位になることは嬉しく思う。亡きベルンハルトはこの大会で優勝することが夢だと語っていた。余はベルンハルトの実弟であるお主こそ彼の者の意志を次ぐべきと考える。次の大会は優勝めざし、励むように」


 へぇ。ベルン義兄にい様はこの大会で優勝することが夢だったのか。


「グスッ」


「……おいおい泣いてんのか?まあ、次は俺に勝てるように鍛錬しとけよ」


「な゛泣いてねぇ!」


「そうかよ」


《そして!栄えある第1位!謎の少年こと、リュークハルト・フォン・スターク選手ぅぅ!》


「「「「うぉぉぉぉ!」」」」


 そこはリュートじゃないんかい!なんて思ってたらどデカい歓声上がる。


「まずは優勝おめでとう。さすが我が息子だ。1位2位と息子が上位ふたつを独占することは嬉しく思う。第2魔法師団長ツヴァイ、また魔帝の名に恥じぬ結果を出したことを誇らしく思う。そしてここで条件が揃ったのでリュークハルト・フォン・スターク伯爵位から辺境伯爵位に陞爵することをここに宣言する」


「「「へ、辺境伯ぅ!?」」」


 貴族含めた観客達が驚きの声を出す。


「そして辺境伯という立派な上位貴族となった今、姓を改める必要がある。この国にスターク家は皇族だけで十分だ。それではリュークハルト本人から新たなる姓を発表せよ」


 わお。こっちに振るんか。まぁ、それも当然か。父上に言ってねぇし。


「はっ。私、リュークハルト・フォン・スターク改め、リュークハルト・フォン・オーランドは誠心誠意この国に尽くすことを誓います」


 オーランド。由来は俺の戦闘スタイル、オールラウンダーから取った。オールラウンダー→オールラウンド→オーランド。みたいな感じ。大抵の貴族が姓を改める時って自分の特徴とかを使うことが多いらしいし、妥当だろう。


「そうか。では、これよりリュークハルト・フォン・オーランド辺境伯とし、この国に仕えて貰う。領地などは当人が成人した時に与えるものとする。また、正式な場を設けるので各貴族は予定を空けておくように。これにて闘技大会を終了とする」


「「「うぉぉぉ!」」」


「ちっ、また陞爵かよ」


「別にいいだろ?お前も一応伯爵様なわけだし」


「オレはまだ一代貴族だ」


「そーですか」


 レントとグチグチ言いながら武舞台を後にし控え室に戻り、観客席まで行く。





「リュートくん!凄かったよ!優勝おめでとう!」


 俺に最初に気づいてくれたのはシャルだ。優勝した後控え室に行ってそのまま父上のところに行ったからこっちに来る時間がなかったんだよな。


「おう。ありがとう」


「うん!それとこれ!はい、リュートくんの分!」


 そう言ってシャルは俺にパンパンになった麻袋を渡した。


 中には白金貨254枚入っている。日本円にして約25.4億円位だ。


 これは闘技大会が始まる前、シャルにお願いしていた賭け金だ。俺、レント、ウェイスの三連単で254倍だ。身元の割れているレント、ウェイスがいたせいであまり倍率が伸びなかったが、白金貨1枚賭けて254枚返ってくるのはデカい。選手が他の選手や自分の選手に賭けることは禁止されているため、シャルにやってもらっていたのだ。


 レントのオッズか1.78倍、ウェイスオッズが1.14倍。俺のオッズはアホほど高かったらしい。ここで俺が白金貨を1枚だけかけた理由は何枚も賭けたら多分ここ潰れるし。って思ったからだ。ちなみに、シャルは俺が1位になると予想して白金貨1枚賭けたらしい。ちなみに俺のオッズは11.45倍だったらしい。1億1450万円。高ぇな。俺の麻袋よりも膨れていない麻袋を俺に見せ、ニンマリしている。可愛い。


「まぁ、荒稼ぎしたし、今日はもう帰るか」


「うん!」


 俺とシャルは他の面々を置き去りにしてさっさと帰ったのだった。




 ◇

 ※あとがき

オッズ計算などの方に明るくないため、かなり適当な数字です、ごめんなさい。それでは次の章で。

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