第19話 世界樹の大手術

 それから私たちは、準備のために一度研究所に戻った。そこでナチュラさんとオリバーさんに考えを伝えた。


「「世界樹を治療したい?」」


 2人はそろって声を上げた。


「はい!」


 私は大きく返事をした。


「それはいいけれど……一体どうやって……?」


 ナチュラさんの問いに、私は自信満々で答えた。


「私が、世界樹のちた部分を切り落とせば、何とかなると思うんです!」


「えぇっ!?フタバちゃんが!?」


 ナチュラさんは仰天して叫んだ。


「大丈夫なのか……?」


 オリバーさんも心配そうに聞いてくる。


 正直言って、世界樹ほどの大樹の剪定せんていは初めてのことだし、上手くできるかはわからない。

 でも、世界樹が助かる可能性があるなら、私はどんなことでもやってみせるつもりだった。


「もちろん、失敗しないように気をつけます!だから、お願いします!」


 私は頭を下げて頼み込む。


「フタバちゃん……。わかったわ。……世界樹を救いたいのは、私も同じよ。私たちにできることがあれば協力するわ」


 ナチュラさんは力強く答えてくれた。


「何か必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれ。すぐに用意しよう」


 オリバーさんもそう言ってくれた。


「ありがとうございます!えっと……早速なんですが、ノコギリってありますか?」


「あるぞ。僕が持ってこよう」


 そう言うと、オリバーさんは部屋を出て行った。


(あとは、癒合剤ゆごうざいがあればいいんだけど……。この世界にはないだろうなぁ……)


 私は頭を抱える。すると、ナチュラさんが声をかけてきた。


「ねぇ、フタバちゃん。私にもできることはあるかしら?栄養剤なら、いろいろ作ってみたんだけど……」


「本当ですか!?ぜひ見せてほしいです!」


「いいわよ!ついつい、楽しくなって試作品を作りすぎちゃって……。ほら!」


 ナチュラさんは嬉しそうに見せてくる。その中には、見たことのない薬もあった。


(すごい……。これ全部作ったの!?……これなら、癒合剤の代わりになるものもあるかも!)


 私は期待に胸を膨らませた。


 そしてそれは、見事に的中した。研究所の近くの木を実験台に使用してみたところ、予想以上に効果が発揮されたのだ。


(やった!これならいける!)


 私は心の中でガッツポーズした。



◆◆◆



 急いで世界樹の元へ戻った私たちは、早速作業に取り掛かった。


 私は、改めて世界樹の朽ちた部分を観察する。近くで見ると、腐食ふしょく部分の範囲の広さがよりはっきりとわかり、不安が込み上げてきた。だが、今は弱音を吐いている場合ではない。


(絶対に成功させるんだ……!)


 私は自分に言い聞かせて心を奮い立たせると、ノコギリを構えた。


「それじゃあ、いきます!」


 私は枝の付け根にゆっくりと刃を当てていく。そして、少しずつ力を加えていった。


──《……ッ!ああっ……!》


 世界樹は苦悶くもんの声を上げる。すると、地面が揺れ始めた。おそらく大地が共鳴しているのだろう。


「くぅっ……」


 私は歯を食いしばって、揺れに耐える。無事な枝にまたがって作業しているから、私は高所にいるのだ。この高さから落ちたりしたら、大怪我をしてしまうだろう。


「フタバちゃん!!」


 ナチュラさんが叫ぶと同時に、両手の平をこちらへ向けた。


「《植物進化プランツ・エボルブ》!!」


 すると、世界樹の腐食部分が淡い光に包まれ、地震が少しだけ弱まった。魔法が、麻酔のような役割となっているらしい。


「ナチュラさん!」


「私の魔法でフタバちゃんをサポートするわ!これくらいしかできないけど……。これで少しでも負担が減るはず!」


「はい!ありがとうございます!」


 私は返事をして再び集中する。


「お姉ちゃん……!」


 ユグは心配そうな表情を浮かべている。


「ユグ……。きっと大丈夫だから!待っててね……」


 私はユグに微笑む。すると、ユグは目をうるませながら言った。


「うん……。わたし、信じてる……。がんばってね……!」


 ユグは笑顔を見せてくれる。私はそれに安心して、さらに力を込める。


(よし……!もう少し……!)


 私は慎重に切り進めていき、ついに朽ちていた部分を切り離した。


(よし!切れた!)


 私は安堵あんどする。だが、まだ終わりではない。ここからはスピード勝負だ。

 急いで切り口に癒合剤を塗り込むと、再びノコギリを握る。そして、今度は別の枝を落としにかかる。


──《うぅ……あぁ……ッ!!》


 世界樹の苦しそうな声が響く。


(ごめんなさい、耐えて……!)


 世界樹の苦しみを想像すると、胸が痛くなる。それでも私は手を止めなかった。



 そして、とうとう全ての腐食した枝を落とすことに成功した。

 全ての切り口に癒合剤を塗り終えると、私は一息つく。


「ふぅ……。これでひとまずは安心ですね……」


 すると、私の身体から力が抜けてその場に倒れ込んだ。緊張が解けて、一気に疲労感が襲ってきたのだ。


「フタバちゃん!?」


「おい、しっかりしろ!!」


 慌てた様子の2人が駆け寄ってくる。


「……だいじょぶです。ちょっと疲れちゃっただけですから……」


 私は笑顔を作ると、身体を起こして言った。


「それより、早く栄養剤を与えないと……」


 剪定後は、樹の再生を促すために、速やかに栄養を与える必要があるのだ。


「わかったわ。それは私たちがやるから、フタバちゃんはここで休んでいてくれる?」


 ナチュラさんはそう言うと、オリバーさんと一緒に世界樹の元へと向かっていった。


(よかった……。とりあえず、役目は果たせたかも……)


 私はホッとして微笑む。すると、急に眠気が押し寄せてきて、そのまま意識を失ってしまったのだった───。

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