銀河連合宙路警備隊活動日誌

赤音崎爽

第1話

 惑星イーサラの軌道ステーション・エマの一角に、見慣れない制服姿の2つの人影があった。

片方は身長が160cmほどの女性で、もう1人は、2m近くはあろうかという細身で長身の男性だ。

2人の制服の背中には「Galactic Union Space Guard」という文字が銀河連合公用語ガラクティーズで書かれている。

 2人の人影は、しきりに周囲の壁面に手を触れている。

すると突然、ガコンというまあまあ大きな音と共に、壁面の一部が小型のバギーロボットが通れるほどの幅で開いた。

壁の向こうには、真っ暗な闇が薄気味悪く広がっている。

「ちょっと、ロイ。こんなところ、本当に行くの?」女性は長身の男性――ロイという名前らしい――に問いかけた。

「行くしかないだろう? シルべがこの奥に逃げたかも、ってんならさ。それに、変なところに入り込まれてろくなことにならなくても悲劇だろう?」

そう言うと、ロイと呼ばれた青年は暗がりの中へ歩き出した。


 時は宙歴3000年。人類が宇宙進出を果たしてから幾星霜もが過ぎていた。宇宙進出を果たした人類は、各恒星系に国家を築き、宇宙文明を構築していた。

 しかし、広大な宇宙に進出したと言っても、争いの火種がなくなったわけではない。

そこで各恒星国家政府は、宇宙の平和と宇宙進出を果たした人類社会を維持するため、「銀河連合」という宇宙規模の国際機関を立ち上げた。

 銀河連合の主な任務は惑星間紛争などでの平和維持活動だが、それ以外にも衛生や航宙上の安全確保も管轄している。

彼らの属する宙路警備隊は、宇宙船の航路上で起こる事件や事故の対応、航宙違反・違法改造宇宙船の取り締まり、宇宙海賊の摘発などを仕事としている。

 そうは言っても、彼ら第24警備隊は連合の宙域でも最辺境の地を飛び回っているので、あまり目覚ましい活躍はしていないのだが。

 そもそも彼らが壁の向こうの暗がりに入り込むことになったきっかけは、標準宇宙時で30分ほど前のことだった。

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