第2話

 バターン‼︎ とあり得ないような大きな音が聞こえて、第24警備隊一行は振り返った。

大急ぎで音の出どころを探すと、10mほど先で1台の貨物バギーがひっくり返っていた。

「チーフ!」一行の中で一番の若手と思われる青年が声を上げた。

「助けに行ってもよろしいでしょうか?」

「エリエザー准等尉、許可しよう。……と言うか、皆で手伝ったほうが良さそうだ」と、チーフと呼ばれた男性が答える。

歳の頃は30代。周りよりも少し立派な肩章を身に着けていることからすると、彼がこの一行の責任者なのだろう。

 一行は、バタバタとひっくり返った貨物バギーの元へと駆け寄った。

近づくに連れて、「ナーナー」という鳴き声が複数聞こえたことからすると、おそらく何か生物を入れたケージが載せられていたのだろう。

「すみません、どうされましたか? 我々は連合の宙路警備隊です」

チーフはバギーを追従させていたと思しき人物に声を掛けた。

「すみません、突然バギーが転倒してしまって……。それから、荷台に乗せていたシルべちゃんが2匹どこかに行ってしまって……」

 シルべとは、地球産のイエネコをベースにした愛玩動物で、宇宙開拓初期の時代から人々と共に生活してきた。

「何っ! 生き物を積んでいるのか⁉︎」と言うなり、チーフはバギーを引き起こそうとした。

「チーフ。力任せに引き起こそうとすると、今度はチーフが下敷きになりますよ?」と、2m近くはあろうかという長身で黒髪の青年が指摘する。

「……バラン、前に回ってくれ。俺は後ろに回るから。チーフ、合図するまで何もしないでくださいよ?」と青年はチーフとバランという青年に指示を出し、自身はバギーの背後のハンドル部分に手を掛けた。

「……バラン、先端を押さえてくれ。チーフはゆっくりと引き起こしてくださいね。……1ウヌス2デュオ3トレス!」

ガタガタとやかましい音を立てながら、どうにかバギーは引き起こされた。

 一方、その間に他のメンバーは散らばった荷物などを拾い集めていた。

すると、「このケージ、空なのに重い! ……わっ⁉︎」と突然悲鳴が上がった。

ぱっと振り向くと、ケージの向こうから、1対の黄色い目玉がこちらを見つめ返していた。

「まぁ、夜闇ブラックオブナイト種! ……怖くないからこっちおいで」と、いわゆるコンパクトグラマー体型の少女隊員が目玉に優しげな声を掛けた。

「あら、あなた。シルべに詳しいのね」

「えぇ。実家で飼っていますから。虎毛タイガーファー種と雑種ハウスホールドの女の子」

「ちょっとルル! あんた、シルべどうにかできるんなら、この子何とかしてよ! さっきからバタバタ暴れて逃げ出しそうなんだけど‼︎」ドスドスとけたたましい音を立てるケージを押さえ込んだ年かさの女性隊員が言った。

20代後半のようだが、彼女がこのメンバーの女性陣では最年長なのだろう。

「あ、それなら布か何かを被せて暗くすれば落ち着くかと。……何なら私が上着を脱ぎましょうか?」

「あんたは脱がんでよろしい!」と年長の女性はルルと呼んだ少女にツッコんだ。

「良い、あたしが何とかする!」と彼女は制服の上着を脱ぐと、やかましい音を立てるケージにばさりと投げかけた。

「さて、これで状況を整理できるかな? 何が起きたかご説明いただけますか?」

「はい。私はイーサラでシルべのブリーダーをしていまして。今日は雌雄合わせて5匹を受け取りに来て、その帰りだったのですが、突然バギーが転倒してしまって、それで……」

「なるほど。そういうわけだったのか……。女性陣、今いるシルべの柄は?」

「キジ白の子と夜闇種の子と……。スワンソン先輩が抱えていた子は何柄でしょう?」とルルがスワンソンと呼んだ年かさの女性の上着をめくった。

すると、ケージの扉からおずおずとこちらを覗いていたのは、白地に黒斑くろぶちの八割れシルべだった。

「まぁ、八割れちゃん! ということは、夜闇種1匹の雑種が2匹ですね」

「ということは、虎毛種の男の子と純白ピュアホワイト種の女の子が逃げてしまったんだわ。2匹とも無事だと良いのだけれど……」

「あの、その逃げてしまったシルべの画像はありますか? 我々は宇宙港ポート内で逃げてしまったペットの捜索に当たることもあるので、お力になれると思います」スワンソンが提案した。

「それでは、お願いします」

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