水風船のはじけ方

黒井羊太

水風船のはじけ方

 ぱあん!

 叩きつけられた水風船が割れる。その中に収められたカラーインク混じりの水が勢いそのままに拡散していく。

「やったな!?」

「やられた方が悪い!」

 オレに水風船をぶつけられた青志は反撃を試みるも、もう遅い。オレは素早く階段を登り、屋上まで上る。

「ここまでおいでー! べーだ!」

 挑発を挟んでから、屋上をぴょんぴょんと渡り歩いていく。青志はその様を見て、追いかけるのを諦めた。


 こうして悪戯するのがオレの常。子どものいない田舎町で悪ガキをやっている。

 青志はこの町では一番年齢が近いが5つ上。オレと違ってもう働いている。シャッター街となった商店街で、よくやるもんだなとオレは呆れている。

「さっさと都会へ行けばいいのによ」

 都会なら働き口は幾らでもある。青志だって都会へ出たいだろうに、いつまでもこんなしみたれた街にしがみついている。

 それがオレには嫌だった。

 だからといって青志が出ていくのも嫌だった。青志がいなくなれば、オレより年上は十は離れる。会話なんてできるはずもない。

 そのもやもやを、いつもこうやって青志にぶつけるのだった。


「待っていたぞ、ケイ!」

「げ」

 ある日青志は、商店街を封鎖して俺を待っていた。一面には段ボールの山。

 ざざざっ!

 呆気に取られていると、オレの後ろも封鎖される! しまった、閉じこめられた!?

「何をする気だ!?」

「ふっふっふ。今日という今日は、お前をやっつけてやるよ。大人をなめるなよ!」

 不敵に笑うと、青志はどこからともなく水風船を大量に取り出した!

「ずりぃ!」

「問答無用! じいさん、説明!」

「説明しよう!」

 青志のじいさんの声がマイクに乗って届く。

「ここは決戦のバトルフィールド! 互いに水風船を投げ合い、制限時間内により多くの面積を自分の色に染めた方の勝ちじゃ!」

「……どっかで聞いた事あるルール」

「隙あり!」

 オレのツッコミを聞く前に、青志が動く! 飛んできた水風船をかわすとオレの陣地で弾けて青色に染まる。

 ……こういう事か!

 いつの間にかオレの後ろにも大量の水風船。あとはもう、腹を決めるだけだ。

「やってやろうじゃねぇか! うぉぉぉ!」

 オレは勇ましくも突撃していったのだった。


 この様子はこっそり映像に取られており、後日シャッター街の活性化に一役買ったのだとか。オレだけは何も聞かされてなかった。本気で戦ったというのに。大人ってずるい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水風船のはじけ方 黒井羊太 @kurohitsuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ