紙飛行機を燃やす

基岡夕理

紙飛行機を燃やす

 いつか終わる。


 あの日君の答えを待っていたとき、僕は悟っていたと思う。それでも気づかないフリをして、告白を受け入れてくれたことに舞い上がった。誤魔化して、なんとかなると期待して、頑張って。不安になる自分を否定して。


 それでも僕は今、こうして一人きりの人生を歩んでいる。



 一人になって半年、僕に出張の仕事が与えられた。つい顔をしかめてしまった。都合上、あの空港を使わざるを得なかったのだ。代わってもらうことが頭をよぎったが、未練がましい気がして諦めた。



 その日、僕はできる限りギリギリに空港に来た。さっさと乗ってしまおう。そう思ったのだが、どうしてだろう、足が止まった。震えている。怖がってる? そんな気がした。それでも時刻が迫る、無理にでも足を動かした。


 飛行機が飛び立ち、青空の中を行く。窓の外を眺めていたとき、不意に、涙が出そうになった。なぜだろうね、君との日々を思い出すんだ。


 僕はダメな人だった。全部僕が悪いんだ。


 なのに、そんなことないと否定したくなって、そんな自分がたまらなく嫌だった。



 到着したのち、先方が遅れるとの旨をメールで受け取り、大きめの時間ができた。チェックインして一度ベッドに寝転がり、それからキャリーバッグを開いた。あれ、すみに何か挟まっている。取り出してみればクシャクシャの紙だった。なんだか嫌な予感がしつつも、気になって広げた。


 手紙だった。夢を語るように朗々と彼女への想いをつづった手紙。


「最悪だ。なんて恥ずかしいものを……」


 思わず頭を掻き毟ってしまう。

 でも懐かしさからか、つい内容に目を走らせてしまった。


「はは……」

 乾いた笑いがこぼれた。


 このときの僕は凄いな。こんな理想がずっと続くと本当に思っていたんだから。ほんと、バカな夢を見ていた。


 充分に打ちのめされて、ようやく破り捨てることを決心した。でも指が動かない。自分でもよく分からなかった。参ってしまい、仕方なくゴミ箱を見つめていた。


「……そうだ」


 それは苦笑せずにはいられないアイデア。


 僕はそれで紙飛行機を作った。

 僕のことを考えて片翼を、もう一方を君のことを思って折った。


 それから近くの浜辺に行って、それを海へ飛ばした。


 不格好だから一瞬で落ちると思ったが意外と飛んだ。まだ飛ぶのかと思ってしまう。ゆらゆら揺れながらも飛び続ける紙飛行機。僕は思わず「もっと飛んでいけ」と念じていた。


 それがいけなかったのかもしれない、次の瞬間にはバランスを崩した。急降下して墜落した。夏の終わりの蝉のように砂の上でひっくり返っている。片翼が折れていた。


 ゴミを拾うようにつまみ上げると、はあと溜め息を一つ、僕はライターを取り出して火をつけた。じわじわと火はむしばむように上っていく。立った煙は、ゆらゆらと、紙飛行機よりも不安定だった。


 やがてすっかり消えてしまったそれに目を伏せて、僕はすくっと立ち上がった。小気味よく砂を鳴らしながらホテルへと歩く。


 僕は笑っていた。


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紙飛行機を燃やす 基岡夕理 @kioka_yuuri

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