俺がつぶやくと何故だが現実になってしまう件〜しかも何か勘違いされてます〜

藤沢 充

第1話 プロローグ

 俺はいつものように、スマホを握りしめたまま寝落ちした。

 まさかこれがその後、俺の人生に致命傷を与えるとは、今のオレには考えも付かなかった。

 


         ◆


 俺の名前は東雲海斗しののめかいと。学業とバイトに明け暮れる、自他共に認めるインドア派大学生だ。


 あ、念の為に言っておくけど、友達いないボッチではない。そこは勘違いしないでもらいたいな。


 今は大学・バイト先・自宅のトライアングルをぐるぐるしているが、時間があれば遊びに出歩きたいなぁ、スポーツもしたいよね、くらいは考えている。

 

 本当にトライアングルの輪から抜け出せないんだって!


 俺、これでも一応中学まで、じいちゃんが開いていた剣道の道場通っていたし、それなりに身体動かすの好きな少年だったんだよ。

 剣道のジュニア大会で全国行った事もある、それなりの腕前ではあるし……。


 まあ、じいちゃんが死んで道場閉めてからは、あって辞めてしまったんだけど……。


 それは追々って事で……。





 今日もまた、バイト先から帰還した俺はTシャツに短パンというラフな格好のまま、風呂上がりの体をソファに横たえ一時の潤いにとSNSを読み漁っていた。


 眺めていたのは文字数制限された『つぶやき』を投稿し合うSNS。

 友達登録をすれば、相手の投稿をもれなく確認できるし、何となく検索した話題に関連した投稿も、随時上がってくる優れものだ。


『今日の講義、イミフ。あの教授に講義持たせんなよ』


 あ、これ。俺と同じ講義持ってるヤツだ。

 確かに今日の教授の話、トビまくってたもんな〜。


『やだ〜、今日も大雨。ひょっとして避難指示でる?川の水位上がってきてるから、近くの人、気を付けて』


 どこの地域だっけ?俺の所は雨降っていないけど、降り続いてる地域あったもんな。確か天気で検索かけてから、この系のつぶやき増えた。


『結婚おめでと〜!むちゃくちゃキレイだぁ♡お幸せにね〜!!』


お、写真付きですか?


これって、人文学の助教授だよな……。

最近休講続きだったのって、この為だったワケね。


「にしても、お姫様抱っこですか。ちょっと苦しそうだけど。でも、いいよね~、このシチュエーション。結構憧れだなぁ」


さて、次は……。



『うぉ〜!俺もはやくイキて〜!!』


 誰だよ、こんな雄叫び呟くヤツ。

ってか、なんでこんなつぶやきが俺のトコに上がってくるんだ?


 記憶にあるのはそこまでだった……。



  ◆



 …………で。


 何がどうなったら、こうなるんだ?


 今、俺はだだっ広い草原の真ん中にいる。爽やかな高原って感じの、一面若草色の中に……。


 そう、例えるならば、

草原の中で山羊たちと戯れのびのびと生活する少女が主人公の、某アニメの様な状況だ。


 一つ違うとすれば、それは俺の周りにいるのが山羊の群れではなく、数人の男達だという事と、しゃがみ込んだ俺に手を差し伸べてくれる筈のヤギ使いの少年は、ファンタジーな世界に居そうな騎士服を身につけ、長剣を俺に突き付けてくる青年に変わっているというコト。


 夢だよね?


 思ってみたものの、指に絡みつく草の感触や匂い。何より、自分の喉元に突きつけられたら剣先の冷たさが、夢にしては余りにもリアルすぎる。


 ……ってか俺、かなり詰んでいる状況じゃない?

 夢ならもっと都合の良いシチュエーションでお願いします!


「…………」

「……は、い?」


 キョトンとした俺から剣先が外れた。


 騎士風の男は剣を腰に吊るした鞘に収めると、深いため息をついた。

 齢は俺よりも4、5歳上くらいか?よく見るとかなりのイケメンっぷりだ。


 て、いうか、今ため息付かれた?!


いやいや、ため息付きたいの俺!俺の方だから!


「#@$&%!!……!」

「だから、何言ってっ……!」


 突然、腕を掴まれ無理矢理に立ち上がらされた。


「痛いって!」

「✕☆▼!!!」


 何言ってる?


ヤバい!これって、言葉が通じてねぇ!!


 男は腕を掴んだまま俺を何処かへ引っ張って行こうとする。

 よく見ると周りにいた数人の男達も、俺たちの周りを取り囲むように近寄ってくる。


 俺の腕を掴んて離さないイケメンは、周りの男達と何やら二・三言葉を交わすと、チラリと俺の方に視線を向けた。


 待て!この状況、このままだと何されるか分かったものじゃないよ!


「離せよ!離せってばっ!!」


 言葉が通じなかろうが構わず、俺は掴まれた手を振り払おうとした。

が、びくともしない。

 それどころか一人の男が連れてくる馬の方へ足を進めていく。


「何処へ連れて行こうってんだ!やめろ!離しやがれっ!!」


 形振り構わず暴れてやる!!


 バタつかせた足や手がどう動いてるなんか分からない、とにかくこの場から逃げなければ……、


間違いなく俺の未来は無い!!


「☆@▶#✕!@&◇!!」

「煩い!嫌だって言ってるだろっ!」


 流石に相手は怯んだのか、一瞬俺の腕を離した。


 そう、一瞬……。


「……!!」


 何が起きた……?!


 気付いた時にはイケメンの顔が間近にあった。

 ……顔だけじゃない。身体もガッチリとホールドされた状態で……。


「……っ、んっ」

キス?!……なんで?


 混乱する俺の意思を無視して、生温かく柔らかいものが歯列を割って入り込んでくる。そのまま舌を絡め取られ、縦横無尽に口腔内を蹂躙してきた。


 「……ん……っ」


 ヤバっ、頭が朦朧とする。


 抵抗する気力さえ皆無となった俺はされるがまま、唯だ男に身を委ねるしかなかった。


「っは……」


 口唇が離れる頃には、立っているのがやっとの状態で……。

 飲み込み切れず口から溢れた唾液を男は優しく拭き取った。


……まて……、流されるな、俺!

……ってか、なんでキス?


 …………キス?!


「……っ、何しやがるんだっ、この変態!!」

「暴れるから大人しくさせただけだろっ」

「だからって!……」


 ……あ、れ?


「…………お前……」

「……言葉……通じた?」


 なんで?何で通じてンの?


 さっきまで意味不明な雑音にしか聞こえなかった言葉が理解できた。それは相手も同じだったらしく、困惑した顔で俺の方を凝視していた。


 いや、そんな顔されても、俺だって意味分かんないし……。


「まぁいい。」


 ため息混じりに呟かれた言葉に続いて、いくつか質問を受けた俺は、自分なりに全然記憶が残っているにも係わらず、記憶喪失の迷子という認定を下された。




 

 


 




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