第27話 静かな悪意
初めての女の子の日が来てから翌日。
私はまた病院で検査を受けていた。
「うん、経過は良好だね。僕も驚いたけど、ここまで正常に生殖機能が作用しているところかな。」
「でも、なんで今なんでしょうね…アニメとか漫画の世界だと割とすぐ来てると思うんですけど…」
「確かに、一夜にして急激な身体変化と女性ホルモン量の増加。身体的常識にとらえるのなら一週間かその辺りで来てもおかしくは無い。」
「麻琴ちゃんの当時の状態を考えれば来ないのも当然なんじゃ無いかしら?」
東先生と思考を巡らせていると、後藤先生が私の背後からやってきた。
「ごめんなさい、驚かせてしまったわね。」
「いえ、大丈夫です。それより当然っていうのは?」
「当時の麻琴ちゃんの精神状態は普通じゃなかった。そのことに、変化した身体は本能的に危機を察知したのでは無いかしら?メンタルやホルモンバランスの乱れで通常の周期で来ないこともある。そのせいでより、辛い目に遭ったのはどうしようも無いのだけど…最近はそうではないのだと思うの、精神的に徐々に安定してきたようだし、だから身体もようやく落ち着く事ができた。すると必然的に迎えるものが迎えられる…」
「なるほどね、となるとさっき相談を受けた諸症状も、もしかしたらこれから先安定してきたとしたら、少し落ち着くかもしれないね。確かに、人間の生理機能ってものはその時々によって影響を受ける。そう考えれば今回のこのタイミングというのは極めて自然なのかもしれない。ありがとう、後藤先生。これは僕だけじゃ気が付かなかったかもしれない。」
私を置き去りにして、議論を交わす2人の先生の間には柔らかな雰囲気が漂う。
この2人はきっと、『そういう関係』なのだろうとなんとなく察する事ができた。
「真壁さん、もし今後もPMSや月経不順とかの症状が出るようだったら、薬も処方するから恥ずかしいだろうけど相談してくれると嬉しいな」
そうして私は、2人の先生たちから手厚い診断を受けて帰宅した。
だけど、私はこの時気が付かなかった。
善意の仮面を被った迫る悪意というものに……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「麻琴ちゃんは純粋で、鈍感で、これほど研究者が動きやすくて、研究の進ませてくれる
白衣の男はパソコンの前でそう呟く。
自身が担当する患者の電子カルテを見ている彼は明らかに表情筋が緩んでいる。
「後少し、彼女の生体データがあれば、僕の研究は最後のフェーズに移せる…楽しみだなぁっ……。」
白衣の男はそう呟いた後に声色を嬉々としたトーンに変えた。
「一度死を経験して、性別が変わって生き返る、そんな肉体を堪能するのは、どんなに気持ちが良さそうなんだ!?」
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