第17話 訪問者
新しい戸籍を渡されてから翌日。
私は今日から
いつもより心が軽やかな気分で玄関ホールの掃除をしていく。
今日は日曜日。
総一郎さんと美津子さんはお二人で外出。
祥太郎さんはまだ自室にいる模様。
私は掃き掃除を終えて次にモップがけをしようとした時、インターホンが鳴った。
受け答えはおそらく洲崎さんがしたのであろう。
鳴ってから数分後玄関扉が開く。
「祥太郎!出てきなさい!!居るのはわかっているの!!」
開口一番、屋敷中に届くだろう大きな声で祥太郎さんを呼んだのはスーツ姿の麗人だった。
「由美子様、皆さん驚くでしょうからもう少し普段通りに…」
「あっ、あぁ…そうね。そこの貴方、ちょっとここの御曹司を連れてきてちょうだい。」
彼女の視線は真っ直ぐに私を捉えていた。
「は、はい!ただいま!」
私は掃除用具を軽く片付けて祥太郎さんを呼びに行った。
祥太郎さんの部屋のドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します、あの…祥太郎さんにお客様がいらしているのですが…。」
「あぁ…麻琴さんか…おはよう。わかってる由美子だろ?あの声なら聞こえてるよ…着替えてから行くから応接室に通してくれ。」
もう9時を回っているのにベッドの中の彼は気怠そうな声で私にそう言った。
玄関ホールに戻るとお姉さんとお付きのメイドさんが待っていた。
「すみません、お待たせいたしました…。祥太郎様はただいま参りますので、先にお部屋にご案内します。」
本来はパーラーメイドが担当の来客対応。
しかし今日は、パーラーの皆さんは技術研修としてホテルのアフタヌーンティーに出掛けてる。
上手く出来るか不安だけどやるしかない。
お二人を応接室に案内する。
「こちらにお掛けになってお待ち下さい。」
私は一礼して部屋を出る。
そして、その隣の給湯室でお茶を淹れる。
お茶の支度が出来てワゴンに載せて給湯室を出るとちょうど祥太郎さんが応接室に入っていくところだった。
「待たせて悪いね由美子。今日はどんな用事で来たんだい?」
「本当に待ったわ。いつまで待たせるつもりなの。まぁ、大した用事じゃないの、元婚約者として、アンタの新しい婚約者ってのを見定めに来ただけよ。」
「それなら事前に連絡位してくれればもう少しちゃんと支度したのに。」
2人のやりとりを横目にお茶をお出しする。
「すまないね、今日パーラーさんが不在しているから…これくらいしかもてなせなくて」
「あら、そうだったの。それじゃあ貴方は下がっていいわ。あっ、ついでに噂の婚約者を連れてきてちょうだい。ここに囲ってるってのは知ってるんだから。」
「あぁ、すまない。紹介するよ彼女こそが僕の婚約者の真壁麻琴さん。麻琴さん、こちらは
「初めまして、真壁麻琴です。よろしくお願いします。」
「「え?……」」
「最低ッ!最悪ッ!!このど変態ッ!!!!」
由美子さんは祥太郎さんと私の顔を交互に見て祥太郎さんに指を差し、そう言い放った。
「つくづく性癖の歪んだ変態だと思っていたけどここまでとはね…」
「ま、待て、話せば分かる…」
「わかりたくないわ!貴方はその扱いでいいの!?」
「わ、私ですか!?えっと…私は側にいれれば十分かな…と…。」
「ふーん、その大きな胸に似合わず随分と
「な”っ…!?」
思わず反射的に持っていたトレンチで胸を隠す。
それと同時になんともいえない苦い感情が湧き出る。
「由美子様?ひとまず、お二人のお話を聞いてからでも遅くはないのでしょうか?」
由美子さんは付き添いのメイドさんにそう言われて大きなため息をついた。
「そうね…なごみの言うことも一理あるわ、いいじゃない、聞いてあげましょうか、事情って奴を」
祥太郎さんは私のこの格好の経緯をかいつまんで話した。
私に配慮してくれたらしく、この家に来たところからざっくりとした内容だった。
「なるほどね、大方理解はしたわ。だからといってメイドの格好をさせている理由にはならないけれど」
「…由美子だって後ろの恋人にメイドの格好をさせてるじゃないか…」
「あら、なごみは私の専属メイドっていう本職なのだから別に問題じゃないわ。私達が会社にスーツで行くように仕事着ですもの」
「まぁ…でもこれでお互いに想い人と一緒になれるわけだ…」
「そうね…貴方からいきなり婚約破棄を言われた時はとうとう頭がおかしくなったのかと思ったけれど、こうしていざ会ってみれば生い立ちはどうあれ、いい子じゃない。大切にしなさいな」
「あぁ、そうするよ。まぁ、僕としては君の意見を尊重しただけだよ。君の恋愛感情が何処へ向いているのか、付き合いが長いから直ぐにわかったよ。」
「えぇ、ありがとう。麻琴さん、こいつの事頼んだわ。愛想が尽きたらいつでも私を頼ってちょうだい。力になるわ。それじゃあ、用が済んだから行くわ。また今度、会いましょ。」
由美子さん達はそう言って佐久間家を後にした。
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