恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

ことはゆう(元藤咲一弥)

第1話 さよなら世界、こんにちは異世界




 良いことをするつもりは無かったが、まさかこんな事態になるなんて──





 黒髪の青年が、橋の上でいじめに遭っている子を見つけた。

「おい、お前等何をしている!」

「うるせぇよおっさん!」

「その子を離せ、暴力行為は犯罪だ!」

 暴力を振るっていた子はその間に逃げ出し青年はほっとしたが、今度は自分が囲まれ絡まれた。

 そして何とか暴力行為を避けてもみくちゃになった矢先に、橋から落下した。



 どぼん!



 浅いはずの川なのに、なんでこんなに深いんだと思って何とか上に上がると見慣れない場所、見慣れない服を着た人達が自分を見ていた。



 そのうちの一人が、青年に駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です。あの……私川から落ちたのですが、ここは?」

 青年の言葉に周囲がどよめく。

 執事服にような格好の男性が青年を連れてどこかへと案内する。


 広い空間、青年からするとRPGの王様がいるような場所だった。


「異世界人よ」

「異世界人? つまりここは異世界ってことですか?」

 王様らしき人に言われ、青年はキョロキョロと当たりを見渡す。

「左様、稀にこの世界に転移してくる者はいるが、皆王族が庇護するという約束事になっている」

「マジ……じゃなくて本当ですか?」

「本当だ、異世界人は良き知らせをもたらすと言われている。あと、其方には残念な知らせなのだが……」

「私にですか?」

「うむ、実は異世界から来た者を返す事はできた事がない、すまない。衣食住等はしっかり手配するからそれで許してくれ」

「そうですか……帰れないんですか……なら、この世界満喫させて貰います! どんな世界か教えてください!」

「物わかりが早くて助かる。執事をつけよう、ミハイル」

「はっ」

「この者の検査と衣服と住まいの用意などを頼む」

「かしこまりました」


──検査?──

──何の検査だ──


「私はミハイルと申します、失礼ですがお名前を」

十六夜いざよい時雨しぐれです。時雨が名前です」

「ではシグレ様、こちらの方に……」


 青年──時雨はミハイルに案内されて、医師の元に来た。


「この人相当強いDomだね」

「ドム?」

「この世界にはダイナミクスと言われる男性、女性以外の性があります」

 ミハイルがそう言うと医者が頷いて続ける。

「Dom、Natural、Sub。この三つだね。異世界人さんや、アンタはここに転移した際にDomと定義されたらしい」

「そのDom……って奴はどんな性なんですか?」

 時雨は分からないので尋ねた。

「Subから信頼を受け取り、Subを庇護する。Subを支配したい欲求がある。それがDomの性だね。Subがその対になっていてSubはDomに信頼を委ね、Domから庇護される。そういったものだね。NaturalはDom、Subどっちの性質も持ち合わせてない中性的な性だね」

 医師は悩むように言った。

「しかし、Domか……Subを早く見つけないと良くないよね」

「ケイン様、そのことなのですが……」


 ミハイルが医師と何かを話していた。


「陛下が?」

「はい、もし転移者がDomならと」

「うーん、まぁ……試してみる価値はあるけどその前に」

「シグレ様」

「な、なんでしょう?」

「普段の言葉遣いで結構です」

「そ、そうか? じゃあ、なんだ?」

「この世界の常識であるコマンドやセーフワードなどに関する勉強をさせていただきます」

「はぁ?!」

「あと、この世界についても勉強していただきます」

「ま、マジかぁ……でも知らないと不味いもんなぁ、よし頑張るか!」

 時雨は自分を奮い立たせた。






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