太陽と月
蒼井ハル
第0話 わたしのこと
夏の刺すような日差しが嫌いだ。
自分はここに居るぞと言わんばかりに存在感を示すそれは、暑くて眩しくて、まとわりつくほどに鬱陶しいことこの上ない。
しかし、分厚いカーテンに遮られたそれは私の根城に入ってくることを許されていない。約六畳のフローリングにそれが当たったのが一体どれほど前なのか思い出せないほど、この場所では最重要警戒対象だ。
カラン、とグラスの中の氷が涼しげな音を奏でた。設定温度26度のクーラーの中は時の進みが遅い。少しだけ口をつけたサイダーは炭酸が抜けきっていて、薄めたガムシロップのような味がした。私の好きな味だ。
外から聞こえる子供のはしゃぐ声が鬱陶しい。何が楽しくてこの猛暑日に外に出ようなどと思うのか。炎天下の中佇む自分を想像するだけで熱中症になりそうだ。
そんなことを考えて、ああ、そうか今は夏休みか、と思い至る。海、プール、花火、スイカ割り…眩いそれらに触れることすら許されない人種である私は、いつしかそれらを嫌悪の対象として見るようになった。
私はこの先一生、約六畳の小さな根城で生きてゆく。
そこに眩いほどの輝きがなくとも、ここは紛れもなく世界の中心であり、不足など一つだってない。
そう、この場所こそが、私のすべてだった。
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