第14話 母と娘と、これから母になる友と

「アンパロ、どうしたの?」


 エバから呼びかけられて、私は我に返る。


「い、いや、なんでもないよ。それよりおめでとう」

「ありがとう。アンパロに祝ってもらうのが、一番うれしい」

「なにかパーティでも」

「いいよ。お仕事が忙しそうだし」


 もし話し込むと、私を引き止めてしまいそうになるそうだ。


「でも、離れちゃうんだね」

「そうなんだ。もう会えないかも」

「なにもできなくて、ごめんね。アンパロ」

「そんな! エバがいてくれるだけで、私は幸せだよ!」

「ありがとうアンパロ。わたし、アンパロになんでももらってばかりだよぉ」


 私はエバと抱き合い、別れを惜しむ。


 せめて最後の夜くらいはと、家族だけで一緒に過ごす。


 荷物は、先に引越し先へ運んでもらった。


 久しぶりに食べた母の手料理は、相変わらずおいしい。

 実母が料理のできない人だったので、私もその血を受け継いでしまった。


 家族との他愛のない会話なんて、何年ぶりだろう。


 父の目があって、母とここまで親子のような関係になった記憶がない。


「私は、あなたの実のお母さんのように振る舞えたかしら?」

「もちろん」


 実の母は、祖父が亡くなったときに出ていった。祖父との不貞が、父にバレたからだ。


 現在の母は、当時勤め人だった父の同僚だった人である。私の出生も、ある意味では実母を追い出す口実だったのかもしれない。


 なりふり構わない父の態度に、兄と姉は出ていったのだ。

 たまに手紙をくれるが、向こうで家族を作って幸せに暮らしているという。あの二人が父に似ないで、本当によかった。


 今の母は彼女なりに、私に接してくれていたのを覚えている。実の母と同じように。


「本当のお母さんのもとに、行きたい?」


 私は、首を振った。


「母さんも、私の母さんだよ」

「そう。ありがとう」


 なぜか、母は悲しげな顔をする。


「実は、あなたを呼んだのは他にも理由があるの」


 母はそう言って、私に一通の手紙を渡す。実母の住所からだった。


 文面を見て、私は感情がこみ上げてくる。


 つい最近、私を産んだ母が亡くなったらしい。


 家を出た段階で、病巣が広がっていた。家族の負担にならないよう、夫に黙って出ていったそうだ。


 父は何も知らず、ずっと前妻を恨んでいたが。


 母は、幸せだっただろうか。最後に祖父との間に私を残して、あの人は逝った。


 涙を堪えれる私を、母はそっと抱き寄せてくれる。


 ひとしきり泣いて、私は落ち着いた。


 珍しく、母がお酒を開ける。めったに飲まない人なのに。

 やはり、辛い話の後だったからだろうか。


「その……図々しい要望なんだけど、一緒に暮らさない?」

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