第11話 老朽化ダンジョンと、代表取締役魔王

 次の引っ越しのお客は、なんとモンスターたちだった。


「わーい、魔王様やー」


 スライムがピョンピョンと飛び跳ねながら、ジュディ社長を「魔王」と呼ぶ。


「あの、『魔王様』って……ひょっとして!?」

「ウチやな」


 社長って、魔王なんだ。


「魔王いうても、人間界で言うたら「代表取締役 社長」みたいな肩書やねん」


 魔物たちにとって「魔王」とは、「えらいさん」という意味で使われるという。決して、「魔物たちの王なんて括りだけで、捉えるわけじゃないという。


「魔王様、お待ちしておりました」


 ダンジョンの責任者らしいキメラの男性が、社長に頭を下げる。


「ほんで、ダンジョンが老朽化したんやて?」

「さいですねん。地盤がゆるなってしもて。もうすぐここも、噴火で沈むんですわ。時代ですわなあ」


 人間と闘争していた当時は、各国に魔王が配置されていた。ダンジョンにエネルギーを送り込むために。


 しかし今や、魔王は勇者に倒されまくっている。平和な時代において、魔王を名乗るのは責任が重い。


「どうして?」

「ぼくらが魔王になっても、ええんやけどね。わざわざ平和な世界を、脅かす存在になる必要があるねん」


 侵略者である魔王とは、そういう存在なのだとか。


 よって、なり手も少なくなったらしい。


「噴火が始まる前に、荷物だけでも運び込も」

「はい」


 私とムーファンで手分けして、ダンジョンに必要なアイテムを馬車に積む。


「この宝石が、ダンジョンを形成する装置なんですね?」

「せや。フロアボス、ここでいえばキメラやな。そいつらがこのダンジョンの心臓部を守ってるねん」


 冒険者はこの宝石にタッチするだけで、ダンジョンを制覇したことになる。


 だが、このダンジョンは廃棄しなければならない。


「また一つ、ぼくたちのすみかがなくなってまうわ」

「残念やなー」


 スライムたちが、悲しんでいる。


「なんとか、ならないんでしょうか?」

「どないもできんねん。ウチが雇おうにも、割り振れる役職があらへん」


 知能が低いため、力仕事くらいしかマトモに任せられない。


 家事などは、事務所にフローラさんがいる。


 申し訳ないが、引っ越しのマカイでも雇えなかった。


「見世物小屋とかも考えたんでっけど、定員が」

「ええて。そこまで自分を身売りせんでも」


 ジュディ社長が、キメラを励ます。


「新天地のダンジョンでも、きばりや」

「はい。おおきに魔王様」


 私たちが脱出した数日後、噴火でダンジョンは消えてしまった。


 帰るところがなくなってしまうって、どんな気分なんだろう。


 私は帰れなくなっただけで、故郷は物理的にはなくなっていない。


 命があるだけ、まだマシか。


 しかし、さらなる問題が発生した。どこのダンジョンも受け入れ先がなかった。


「そんなー。世知辛すぎやで」


 ますます、スライムたちがションボリする。



 どうしよう。マカイでは雇えないし……あれ?



「あのさ、提案があるんだけど」


 私は、手を挙げた。


「どうしたの、アンパロ?」


 ムーファンが、首を傾げた。


「受け入れてくれるダンジョンがなかったら、作ればいいんじゃない?」

「でも、どこに? 魔王がいる土地なんて、どこにもないんだよ?」

「あるじゃん、ひとつだけ」

「どこよ?」

「ウチの会社の地下」

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