忘れ物がひどい~僕は未来が不安で仕方がないんだ~

にゃべ♪

第1話 忘れやすい僕

 僕は最近変なんだ。最近よく忘れ物をしてる。教科書や宿題や友達の誕生日、お使いもそうだし、家での決めごと、好きな番組を見るのもたまに忘れてる。

 ちょっと前までこんな事なかったのに。あれ? 本当にそうだったのかな? 実は昔から僕は忘れっぽかったのかも?


 ああもう何がなんだか分からない。今日が何曜日かも分からない。ボケちゃったら毎日こんな感じなのかな? もしかして僕ってそう言う病気?

 確か記憶障害? とかそう言うんだっけ? まだ早すぎるよ! 僕まだ10歳なのに! 


 何とか忘れないようにとメモするようにしたんだけど、今度はそのメモの場所を忘れてしまう。メモを見つけても、今度はそのメモの意味が分からない。

 きっともっと詳しく書けばいいんだろうけど、書いた時は分かっているからつい簡単に書いてしまうんだよね。いつも気をつけようと思っているのに、そう思っていた事自体を忘れているんだ。もうダメだー。


 あ、でも、持っていくものリストとか、そう言うのはメモのおかげで忘れなくなった。曜日はカレンダーを見れば分かるし。メモもノートに書き写しておけば、ノートをなくさない限りは問題ないかな。

 問題があるのは突然何かを頼まれたりした時、もうパニックになる。覚えておこうとは思ってるんだけど、気がつくと忘れてる。


 この事は、もうみんなに知られちゃってるんだ。家族にも、友達にも、近所の人達にも……。みんなは僕の事をどう思ってるんだろう。


「あれ?」


 カレンダーをぼうっと眺めていた僕は、頭のどこかに何かが引っかかっている気がした。こう言う場合、大抵何かを忘れているんだ。

 だけど、どうしても何を忘れたのか思い出せない。僕は一体何を忘れてしまったんだーっ!


 すぐに僕はノートを探す。もしかしたら、何か書いているかも知れない。ノートは僕の命綱なんだ。

 だけどおかしいな、どれだけ探してもノートが見つからない。いつでも書けるように、ノートは分かりやすい場所に置いているはずだったのに。


 実際こう言う事は多くて、だから予備のノートは机の引き出しに何冊も入れている。はぁ、また新しいノートを下ろすのかぁ。忘れ物が酷いせいでメモノートは10ページと進んだ事はない。だから、本当はチラシの裏にでも書いておく方がいいのかも知れない。勿体ないし。

 だけど、そうしたら今度はそのチラシごとなくすだけの話なんだ。


「おーい!」


 窓の外から声がする。ひょいと覗くと、見覚えのある顔がそこにあった。友達のサトシだ。あれ? 今日は遊ぶ予定だったのかな? 僕は窓を開けて身を乗り出した。


「何しに来たのー?」

「やっぱり忘れたのかー?」

「うん、ごめん」

「出られるかー?」


 やっぱりそうなのかな? サトシは僕を外に連れ出そうとしている。やっぱり約束か何かをしていたんだ。僕はとりあえず出かける準備をして部屋を出た。

 本当は家にいるお母さんに声をかけて出るべきだったんだけど、この時はそれを忘れていたから何も言わずに玄関のドアを開けていた。


「よっ!」

「や、やあ……」

「じゃあ行こうぜ」


 サトシは戸惑う僕に構わずズンズンと歩き始める。この状況に思う事がなかった訳じゃないんだけど、もう外に出てきてしまったんだしと、慌てて友達の後をついていった。


「どこ行くの?」

「どうせ説明してもすぐに忘れちゃうんだろ?」

「それは……うん」

「だからまあついてこいって」

「分かった」


 そうして、行き先も分からないまま僕はサトシについていく。コイツの言い分も分かるんだ。何度も同じ事を言うのはしんどいもんね。

 でもそう思われているって事は、僕はサトシにきっと何度も同じ説明をさせたんだろう。忘れているから特に罪悪感は感じないけど。


 僕らは山道を歩いていく。これは何だか楽しい。この道の先に何があるんだろう? この山って初めて来たのかな? 少なくともサトシは歩き慣れてるみたいだ。ベテランがいるなら安心して歩けるよ。

 多分、はぐれたら二度と家に辿り着けない気がする。怖い。絶対迷子にならないようにしないと。


 道は人通りはないけど車が通れるくらいには広くて、それでいて人の気配はない。これって、まるで夢の中の景色みたいだ。前を行くサトシも黙々と歩いているから、何だか本当の夢の中にいるみたいな気になってくる。

 ここは本当に現実の世界なのかな? 見た事のない景色は面白いけど、やっぱりちょっと怖い。


「ねぇ」

「うん?」

「何か話そうよ」

「でもお前何話しても知らないって言うしなー」


 サトシが無口なのはそう言う性格だったからじゃなかった。僕がうまく会話を続けられないから、それであきらめちゃったんだ。普通なら、そんな面倒くさい相手とは遊んでもくれなくなるはずなのに……。

 そう思った僕は、つい質問していた。


「どうしてサトシは僕に仲良くしてくれるの?」

「は? 俺達友達だろ?」

「でも面倒くさいでしょ、僕」

「でもお前といると楽しいし、それに……」


 サトシは意味ありげに話を途中で切り上げる。その言葉の先が知りたかった僕は、すぐにその先を急かした。


「それに?」

「俺はお前のその忘れっぽいやつ、治ると思ってるんだ。また昔みたいになれるって……」


 サトシはそう言うとまた黙ってしまった。僕はここでふと考える。一体いつから僕はこうなってしまったのかと。その答えを目の前の友達は知っているのかも知れない。

 そう思ったところで、僕の口は勝手に動いていた。


「ねぇ」

「なんだ?」

「僕はいつからこうなっちゃったのかなぁ?」


 サトシはこの質問にすぐには答えなかった。何だかとても沈黙が重い。道を歩く足音だけが耳に届いて、僕も何だか気まずくなる。何か別の話題を話そうと口を開きかけた時、前を歩く友達がポツリと独り言のようにつぶやいた。

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