豪・盗・弾!!!

遅咲き丸

序章:リモ変質編

 ああいや、君達が立ってるか座ってるかしてる現実リアルではなく、僕達が方のの方さ。

 悪い悪い。 知らない世界の話をされても困るよね? フフッ。

 まず、この世界の大陸は、地理的には地球と変わらない……表面上はね!

 アウイヒッ!ハッハッハッハ……ああ、ごめんごめん、続けよう。

 そこには君達となんの違いもない人間もいる。

 体質的にホモ・サピエンスと変わらないが、、ねぇ……ウフフ。

 ああでも、長話もなんだ……ある少年の話そうか。

 彼の名前はリモ。

 その辺に転がってる、ただの凡人だった……ププッ。


 トミノヤマ駅南口。

 バス停を降りる人々の中の一人。

 黒い髪の、黒い学ランの少年。

 生まれ持った耳と、ズボンポケットの中のスマートフォンを、黒く細いワイヤーイヤホンで繋いでいる。

 16歳の少年、リモ。

 この物語の主人公……のである。


 リモはスマートフォンの中の地図アプリの指示に従って足を進めていた。

 リモは地図アプリの女性ボイスを好んでいる。

 丁寧な言葉遣いが穏やかな一方、機械的にも思える声調に惹かれていた。

 好きな声で彩られる、慣れ親しんだ帰り道を好んでいた。

 一秒後までは。

「次、斜め右です」

 リモの頭中に、思わずなはてなが浮かんだ。

 いつもなら左と答えるところを、斜め右と言われた。

(いつの間にアップデートしたのか?

 新しい近道かな)

 ナビボイスへの信頼から、楽観的にそう思い、リモは歩を進める。

 しかし、歩く先は暗くなっていく。

 リモが流石に不安に思った時には、廃れた倉庫の前だった。

(……なんかバグった?)

 そう思って道順を設定し直そうとした指は、あらぬ所を押してしまう。

 タッチし直そうと思った瞬間。

 液晶がプツンと切れた。

 リモは呆気に取られた。

 授業中はもちろん、休憩中でスマホはあまり触らないし、充電が切れる時間ではないはずだ。

 電源ボタンを再度押そうと思った時、リモは気づいた。

「えっ……え!? なんでここに!?」

 思わずそう叫ぶのも当然。 リモの足は、倉庫二階に通ずる、屋外階段の最上段にのだから。

 リモは驚きのあまり、手からスマホを滑り落としてしまう。

 次に焦ってスマホを取り戻そうと手を伸ばすと、足が退した。

 困惑するリモだが、どういうわけか、自分の足の動きに、まま、開いていたドアの向こうにムーンウォークすると、腰が手すりにぶつかる。

 そのまま重力に従って背中から倒れていき、思わずの悲鳴を上げるリモ。

 足が宙に浮かび、恐怖に怯える眼が捉えた真下には、巨大なドラム缶いっぱいに入った、泡立つ黄緑の液体。

「なんだなんだなんだなんあっ!」

 背中が手すりで逆上がりするように半回りすれば、リモの身体は液体へ向かってほぼ垂直に落ちていく。

 おびただしい悲鳴は、主と共にどぼんの音と共に瞬時に溶解した。


 身体が黄緑に沈んでいく形容し難い

 血管がバラバラに分散する。

 脳髄が後ろに吸い込まれていく。

 そんな感覚に長い時間浸され、“リモ”は目覚めた。


 視界は緑の天井を映し、全てが緑で出来ていた。

 やがて緑色は消えていき、薄暗さで黒が濃ゆい倉庫。

 しかし、“リモ”の視界は奥の入り口に転がる空き缶まで見通している。

『な、なんだったん……』

 リモは“喉”から出した自分の声を疑った。

 好んでいた電子音声と似たような音が混じっていた。

 ふと動かした身体の感覚と、音にも違和感を感じた。

 腕を見ると……黒い筒。 その硬い筒の先に、丸みのあるものがついている。

 丸いものの筒の反対側に、同じような筒が、目下すぐの棘の一本ついた丸いものから出ている。

『な、なんだこれ……』

 嫌な予感がして、手を動かそうと思えば、二つの筒が動いて、丸みのあるものが、開いた。 指の形に。

 自分の思い通りに、が動いたのだ。

『……まさか!?』

 黒い掌をに押し当てる。

 ……硬い。 今動かした時も。

 目に太い指を触ってみる。 ……ビリっとくるような痛覚が働かない。

 そればかりか、目の感覚も硬い気がした。

 流れるように顔を触っても、硬い。 硬度は目より高い。 鼻孔も、口も、見当たらない。

 立ち上がってみれば。 おかしな違和感を感じた。

 少し狭い空間、その内装は。 

 まるで自分が工場のジオラマに入ったような感覚。 というよりも。

『おれ、ロボになってる……!?』

〘その通りだよ、NPCくん〙

 耳慣れぬ響きの先を、機械音を鳴らして顔を上げてみれば、幽霊のようなものが、青い炎を引き連れて、浮かんでいた。

 青い髪の下、端正な顔立ちを笑いで歪ませている。 全身の白いローブの袖から、小綺麗な手を出している。

『な……なんだ!? なんだお前!?』

〘神だよ! 神様さ……君をその身体"オートァイ"に導いてあげた、ね?〙

 巨体リモはあまりの出来事の連続に困惑した。

『い、いきなりスマホがバグって、気づいたらロボになってて、今度は浮いてて神様って……』

〘君には動揺してる暇はない。 僕の道具になってもらうよ!〙

 隙間を許さぬ神の言葉に、リモは慣れない機械音声を荒らげる。

『な……なに理不尽言ってんだ。

 家に帰る最中だったんだぞ!?』

 当然の文句に対し、神名乗る浮遊人は、巨体を見下すままにして、はぁ?と嘲笑を見せる。

〘帰ってなにするつもりだったんだよ?〙

『なにって……』

 当然、帰って勉強して食事をするだけの人生……"人生"。

 今まで過ごしていたものを表す言葉に、強い違和を感じる。

 鉄の塊は、頭を抱えた。

〘ふふふ。 実験成功かな?〙

 笑うままの浮遊神に苛ついて、電子音を荒らげる。

『お、おい……おれに何をした!?』

〘知りたかったら……命令聞いてもらうよ?

 とある場所を強盗してもらう〙

『ご……強盗? 犯罪者になったら警察に……?』

 警察に捕まった後、裁判を受けて刑務所に入れられる。

 

 その結論に違和を感じ、リモはまた頭を抱える。

〘なんかわからないかな? じゃあ、話聞けよ〙

 リモはまた顔を上げれば、嫌味な嘲笑で見下している青神。

 その横に、いつの間にやら、電子機器もない虚空から、モニターが映っている。

〘強盗先は、刑務所だ〙


 スターグリーズ刑務所は血と腐臭に塗れていた。

「こちら第三棟! 巨大ロボットの襲撃をぉッ……!?」

 トランシーバーに声を荒らげていた刑務官の肺が、大きな鉄の掌に圧迫される。

 自動人形にとって雑な武器と化した公務員は、恐怖に煽られる同僚に向けて振り下ろされ、血飛沫が一瞬で辺りに吹き荒れた。

 骨や内蔵の散乱する惨状は、666cmの鉄巨人が通った道にもある。

 刑務官達を踏み殺し、殴り潰して、惨劇を引き起こしてきた張本人は、血飛沫から湧き上がってくる初めての感情に戸惑っている。

 ――これが""? ……こんな気持ち、はじめてだ?

 持っていて当然のはずの感情への

 ――どうして血が噴き出す度に? こんなことをして、どうして?

 それが発生した事柄に対し、リモは戸惑っていた。

 ――俺は本当に、化け物になってしまったんじゃ?

〘おい、次が中ボスだ〙

 血みどろ道中で嫌味に囁いてきた神の声に、はっと我に返るリモ。 眼下に厳重に多重に施錠された扉がある。

『中ボスって……ラスボスは?』

〘まだ先だよ。 最上の武器が手に入る。 そうしてここのボスをやっつけるのさ〙

?何ステージあるんだよ……』

〘ラッキー7〙

 半透明のアウイ神は、扉一つを縛る多くの錠に全身を

 しばらくすれば、錠は解れ落ちていった。

 この扉の先には……一人の獣が喘いでいる。


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