7月30日、奔走。
九時七分
「今日も一段と暑いわね〜」「デパートで涼みたいけど今は休業してるわね」「ど、どういうことだ!! このデータはぁ!!」「…………おかわり」
七月も終わりに近づいた頃、喫茶店『
そしてもはや常連と化している三人はいつも通り奥の席で顔を合わせていた。
「それで、昨日は有耶無耶で終わっちまったけど何をするんだ?」
友人はレモンティーを飲みながら少年を見る。
「二橋亮二に協力して欲しいとも言っていたな」
パインジュースを飲みながら少女は友人の言葉に続く。
一方、
「黒幕に姿を現してもらおうと思うんだ」
「「黒幕?」」
少年の一言に二人の疑問の声が重なる。
「まずはあの三人からだね」
そう言いながら少年はクラフトコーラを飲んだ。
シナモンとクローブ、レモンの香りが口の中に広がった。
――――――――――――――――――
十一時十四分
市役所近くの道路の路地裏に三人の大学生と思しき男女が居た。その服装は砂埃に塗れており、まるで砂嵐を浴びたかのようだった。
人目を避けながら歩く三人の表情はどこか焦りと疲れが伺え、緊張を秘めながら人通りの無い裏路地に座っていた。
「いつになったら亮二は見つかるんだ、疲れたぁ……」
「三井君、頑張って」
「デパートでは警察に待ち伏せされ亮二には会えず……か」
日歳連合の三人はデパートに向かった。そこで彼らを待ち受けていたのは警察官だった。
まだ指名手配されていなかった三人はその場で言いくるめて逃げようとしたが、警察官はとんでもない行動を起こした。
「まさか銃を出して来るとはね……」
「デパートに不法侵入したとはいえ銃はねえだろ!」
「三井君、静かに!」
その場は何とか逃げ切れたが、その時に警察官に傷を負わせたしまった。さすがに銃を持っている相手に手加減はできなかった。
「それでリーダー。この後どうするよ」
「亮二への手がかりが無くなったからな……いっそのことあの高校生三人を探してみるか?」
『それならちょうど良かったです。俺達も貴方達を探してました』
路地の先から声が響く。見てみるとそこには以前会った高校生の三人組が居た。
「君たち……」
「こんにちは。これ、おみやげです」
少年はリーダーにポリ袋を渡した。中を見てみるとそこにはミネラルウォータと『特製カツサンド』と書かれたラベルのパックが三つづつ入っていた。
「おぉ、カツサンドだ! ありがてぇ!!」
「しー!」
そうして日歳連合の三人は十六時間ぶりの食事を食べ始めた。
「……助かる。ところでどうしてここが?」
「知り合いにちょっと人探しが得意な人がね」
少年の言葉に頭を捻りながらも日歳連合のリーダーはカツサンドに齧り付いた。
「すごい食べっぷりだな、よっぽど腹が空いていたと見える」
「そうなんだよ、警察から逃げ回っててロクに食えなかったんだ。九十九なんてずっと腹をぐうぐう」
「…………三井君?」
彼女の視線に三井は言葉を詰まらせた。
そうして三人の食事が終わりリーダーは少年達に頭を下げる。
「改めて助かった」
「いえ、このカツサンドはいわば依頼料みたいなモノですから」
「依頼料……?」
「えぇ、まずはこれを見てください」
そうして取り出したのは一通の封筒。以前二橋亮二に宛てられた手紙だ。
「これは?」
「簡単に言えば黒幕からの指示書です。指定の時間にここに来いという」
リーダーは手紙を見る。指定された場所は繁華街にあるビルだった。
「これを見せて俺達にどうしたいんだ?」
「まあ一言で言えば…………」
少年の目。その目はとても落ち着いていた。
「一つ
――――――――――――――――――
十四時
繁華街のその奥、車行き交う道路沿いに一つの大きな建物があった。
市役所近くにあるデパートと双璧を成す大型の業務用販売店。
『業務用ショッピングセンター・ゲンジー』
無骨なコンクリートで作られた店内には食材から建設材料、工業製品までありとあらゆる物が売られている。
"一円まで限界に"をモットーとした店内には毎日主婦から学生、現場作業員まで様々な人が利用している。
「おっし、マネキンとかつらあったぞ!」
「血糊もあった。まさか本当に売っているとは……」
友人と少女は探していた物を手に少年の元へ来た。
「服も確保できた。とりあえず会計しようか」
そうして四つの品を持ってレジへ向かう。
合計四万二千五十円。
「……高え」
「等身大のマネキンがあるからな、それでもかなり割安だ」
三人は財布を震わせながら会計を済ませた。
そうして店を出て人気の少ない公園に移動した。
「買ったやつは俺が持っていくよ」
「わかった。ところで顔はどうするんだ? 再現するには顔が必要だろう」
少女の疑問に少年はニヤリと笑う。
「大丈夫、アテがあるから。また明日喫茶店でな」
「了解。カメラについては私と彼で五希さんの所へ行くぞ」
「姉ちゃんは任せとけ!」
「ははっ、任せた」
そうして少年はマネキンを担ぎながらどこかへと向かって行った。
「おっと、すみません」
たまにマネキンを通行人にぶつけそうになりながら。
――――――――――――――――――
十七時二十一分
夕方の時刻。夏の季節故にまだまだ明るいがそろそろ日が傾き始めた頃、少年は一人駅前の広場で誰かを待っていた。
マネキンを担ぐ少年は通行人から白い目で見られながらもその人物が通るのを待っていた。
「………その珍妙な姿はなんだ?」
そうして現れる。
以前とは違い青いシャツに黒いズボンだがあの時と同じ白いジャケットを羽織った色黒い肌をした長身の青年が少年に話しかけた。
「いやぁ、そう言えば貴方の連絡先を知らなかったのでこうして目立つようにして見つけてもらいたくて」
「なるほどな。つまり
「はい。頼みたいことがあって」
青年は一つため息を吐き駅前の喧騒へ振り返った。
「ここでは目立つ。場所を移すぞ」
そうして二人は人通りが少ない駅前のガード下へ移動した。
「それで、頼みとは?」
「これなんですけど………」
少年が見せたのは無機質な肌色、今まで背負っていたマネキンだった。
「マネキンか」
「はい。あとこれです」
取り出したのは写真。少年の死体の姿が写っている写真だ。
それを裏面に向けながら青年へ渡した。
「そこに写ってるの結構キツイヤツなんで注意して見て欲しいんですけど……」
「構わない」
一切の躊躇いも無くその写真の内容を見た。
それを見た青年は取り乱すこと無く少々眉を曲げる程度だった。
「……」
「……すごいですね。俺が見た時は思わず吐いてしまいました」
「
その冷静な姿に少年は思わず感服してしまった。
「それで、この二つを見せてどうしたいんだ?」
「その写真に写っている俺の顔をマネキンに描いて欲しいんですよ」
青年は考える。そして一つ疑問を投げかける。
「何故
「あ、それは単純です。貴方ならこの顔を上手く描いてくれそうだからです」
「ほお?」
青年は嬉しそうに笑う。
「良いだろう、何やら面白そうなことになってきたのでな」
「本当ですか! ありがとうございます!」
青年は鞄の中から絵筆と絵の具を取り出した。
「では、始めようか」
そうして二時間後。
「ふむ、完成だ」
「おぉ……」
マネキンには写真に写っている少年の苦悶の表情が描かれていた。死を明確に表したその顔は一見すれば本物に見える程だ。
「すごいですね……、自分の顔そのままです」
「模写程度雑作も無い」
青年は絵筆を片付けスッと立ち上がった。
「では
「ありがとうございました」
そうして青年は暗くなり始めた道に消えて行った。
「よし、これで準備完了だな」
そう言いながらスマホを取り出し友人へ連絡を取る。
『おう、顔は描けたか?』
「バッチリだ。カメラはどうだ?」
『こっちもバッチリだ! 暗い所でもくっきり映る』
友人のその言葉に少年はある種の確信を得た。
「それなら夜に神社で!」
『了解! ヤシロにも伝えとく』
そうして通話を閉じようとした時、少年は一番大事なことを思い出した。
「あ、あと明日の夕方はカラオケな」
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