時計さん

根上真気

時計さんとテレビくん

 今はAM3:00。

 でも私の示す時間はAM3:10。

 私は少々せっかちのようだ。

 しかし、それぐらいを好む者もいるようなので、まあ一長一短といったところか。

 

 私は日々、時を刻んでいる。

 といってもそれはある意味どの生き物もそうだが。


 とにかく毎日、一分一秒ずつ、時を刻む、ただそれだけである。

 晴天だろうが雨天だろうが雷が鳴ろうが嵐が吹き荒れようが、関係ない。

 桜が咲こうが百日紅が咲こうが山茶花が咲こうが寒椿が咲こうが、関係ない。

 楽しくもないしつまらなくもない。

 嬉しくもないし悲しくもない。


 時を刻む、それ以外は何もない。

 人間というのは私達の動向をひどく気にするようである。

 もしくは気になるようである。

 これは私の個人的な見解だが、私達の事をあまり気にしない人間の方が、何となく幸せそうに見えたりする。

 しかし、そういう人間を見て「この人は頑張っているな」とは思わない。

 頑張っている人間程、私達を気にする。

 しっかりした人間程、私達を気にする。


 そう考えると「何となく幸せそうに見える人」も、そうでもないようにも思えてくる。

 強いて言うなら「気楽」か、それとも「怠惰」か、それとも「脱落者」か。

 それでも確かに私達の事を、「何となくしか気にしない」実に穏やかな流れに生きる人間もいるようだ。

 どちらが本当に幸せかはわからないが、いずれにせよ、私達から逃れたい気持ちは、人間誰にも大なり小なりあるようである。

 人間の多くは、私達に縛られているような感覚があるようだ。


 しかし、私は思う。

 私達は人間を縛ろうとなど一度も思った事はない。

 そもそも、私達は人間の手によって生まれたのだ。

 つまり、人間は私達にとって親、産んでくれた事に感謝すらしているのである。

「親は子に縛られる」という感じか。

 とにかく、私はこれだけは自信を持ってはっきり言える。

「私達は時を刻む、それ以外のなにものでもない。何を感じどう思うかは全てあなた方次第です」


「おまえは理屈っぽいなぁ」

 少し呆れたように面倒臭そうにテレビが言う。

「わざわざ当たり前の事を真理みたいに言われてもね~」

 時計以上にわかったような面構えで、イヤらしくニヤけながらテレビが続ける。

「俺だって時間示すしな、おまえより人間の事わかってるよ」

 時計は少し萎縮したようにまごついて、

「まあ、その、なんとなくそんな事思ったんだよね」

と、実に歯切れ悪く言う。そして、場の悪い思いでうつむき黙ってしまった。


 時計はテレビよりも、人間の事をずっと深く理解している。

 テレビは時計よりも、人間とずっと楽しく付き合っている。

 すると、突然横から鳥のようにスマホがやってきて、

「うちらが一番人間の事わかってね?てゆーかテレビも時計もうちらに付いてっし」

 途端、時計もテレビもしゅんとした。

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時計さん 根上真気 @nemon13

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