弔いの騎手ユリシーズ
鈴ノ村
プロローグ
慟哭
ガス灯の光も届かない闇の中で、ユリシーズは座り込んでいた。
ロンドンの夜空は厚い雨雲で覆われている。冷たい雨粒が上着に染み込んでいくが、彼はうつむいたまま微動だにしない。
腕の中には息を引き取ったばかりの弟がいる。まだ少しだけ温かい。
「起きろよ、おい……もうちょっとで、お医者さんのところに着くから、なあ……」
体を揺すっても弟は目を覚まさない。眠っているような弟の顔に雨粒が落ちて流れていく。
「ルーク、ルーク……」
何度も呼びかけても駄目だった。彼自身も、弟の死という現実を受け入れつつある。
ユリシーズは空を見上げた。真っ暗な空から雨粒がこぼれ、涙を流す彼の顔をさらに濡らしていく。
冷たくなっていく弟を強く抱きしめた。ろくに物を食べてなかった体は、こんなにも細くて軽い。
雨はさらに激しくなり、ざあざあと音を立てて降りしきる。
「うわぁぁああーーっ!!」
豪雨の中、喉がつぶれてもなお泣き叫んだ。
やがて涙も枯れ果てた頃、幼い弟を抱えたまま前を向く。路地裏の暗闇で彼の目だけが憎しみに燃えている。血走った目は路地裏を抜けた先、きらびやかな貴族階級が闊歩する大通りに向けられていた。
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