うえるかむわーるど

夜皇帝

第一章

プロローグ

ここはとある高等学校。教室内では数十人の生徒が真剣に授業を受けていた。


「じゃあ東、次読んでみろ」


「はい」


一人の女子生徒が音読のため席を立つ。周りの女子生徒と比べて身長が高く、容姿の整った黒のロングストレートヘアの女子生徒が教科書の文章を読み上げる。


「よし。では文章中の"it"が何を表してるかわかるか」


「えっと……」


女子生徒が教科書から答えを探す。


「美蘭」


すると誰かが机を叩いてくる。隣りの席の女子生徒が教科書を見せながら答えを教えてくれた。


「~~~です」


「よし、座っていいぞ」


女子生徒は席に座った。そして隣りの席の女子生徒にウインクでお礼をした。


・・・・・。


本日の授業が全て終わり全員が帰り支度をしている。先程の女子生徒二人が会話していた。


「さっきはありがとう瑞香」


「どういたしまして」


教師の問いに答えた女子生徒は東美蘭あずまみらん。その美蘭に答えを教えたのは西宮瑞香にしみやみずか。二人は友達である。


「私すぐにわからなかったよ。やっぱり瑞香はすごいね」


「文章を理解していれば簡単だよ」


帰り支度をしながら楽しそうに会話をしている。


「美蘭~瑞香~!」


教室の外から別の女子生徒が二人の名前を呼んでいる。


「明乃だ」


別のクラスの二人の友達美波明乃みなみあきのが二人のそばまで来る。


「ハロ~」


「明乃、ホームルームは?」


「もう終わったよ。え?まだ終わってないの?」


「まだ先生来てないからね」


「吉田おっそ。せっかくの短縮授業なんだから早くしてよ~」


「まだ終わってないから外で待ってて」


「わかった。待ってるよ」


明乃は踵を返して教室を出た。


「日村先生は早いんだね」


「せっかちな印象あるからね」


帰り支度を終えた生徒たちは担任教師が来るのを騒がしくしながら待った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

放課後。美蘭、瑞香、明乃の三人は共に下校する。この三人は学校ではほとんど行動を共にするほど仲が良い。今日もこのまま明乃の家に遊びに行くつもりだった。楽しく話しながら歩き、数十分後に家に着いた。


「親いないから上がっていいよ」


「「お邪魔します」」


家に上がると早速部屋に集まる。


「それじゃあ女子会を始めま~す。いえ~い!」


「ノリノリだなあ」


主催者である明乃が一番盛り上がっていた。


「美蘭。早速あれ出して」


「はいはい」


美蘭は鞄から小包を出す。小包の中にはクッキーが入っていた。


「おおー!」


明乃と瑞香が一つずつクッキーを手に取る。


「いただきます」


二人がクッキーにかじりついた。


「んん~!美味しい~!」


「ありがとう」


二つ目、三つ目とクッキーを口に運ぶ。


「美蘭はすごいね。料理もお菓子作りもできるなんて」


「料理は私の特技だからね」


「背は高いし、スタイルもプロポーションも良くて料理もできるなんてずるいよね…」


明乃がクッキーをかじりながら不満そうに言った。


「そんなこと言われても……」


「あっ、また胸大きくなったんじゃない?」


「ちょっとやめてよ……」


美蘭は恥ずかしそうに胸元を隠し、軽くからかった瑞香がくすくすと笑った。


・・・・・。


その後は学校のことや最近の流行りの話題で盛り上がり、女子会は二時間程続いた。日も暮れていき辺りは次第に暗くなっていた。


「もうこんな時間か。そろそろ帰ろうかな」


「え?早くない?まだ五時だよ」


「帰って課題やらないと」


瑞香はすでに帰り支度を始めていた。


「真面目だなあ、瑞香は」


「瑞香は大学進学目指してるからね」


「大学進学か~将来のことなんて全然考えてないや」


明乃は後ろに手をついて話している。


「美蘭だってもう決まってるんでしょ」


「え?」


「料理が上手だから料理人になるんでしょ」


「まあ……そうなるのかな……」


美蘭があやふやに答える。


「やっぱり一流企業のシェフとかになるの?」


「でもそういうのって専門学校とかに行かないとだめなんじゃないのかな」


「う~ん……お母さんとお父さんからはそういうのに就きなって薦められてるけど、私も大雑把でまだなにも決めてないや」


「私も、大学に行くってだけでどこに行くかなんてまだ決めてないから」


「なんだ。みんなまだ決まってないんだ」


明乃が胸をなで下ろす。


「でも進学するために今から頑張らないと。そのためには今の成績も大切なの。だから今日は帰るね」


「瑞香が帰るなら仕方ないね。今日はお開きにしよう」


三人の女子会はここで終了となった。帰る二人を明乃は見送る。


「今日は楽しかったよ。ありがとう。また明日ね」


「美蘭もまた明日ね」


「じゃあね」


三人は別れて、瑞香と美蘭はそれぞれ帰路に着いた。


・・・・・。


夕焼け空が綺麗な時間帯の中、美蘭はスマートフォンで親にメッセージを送りながら歩く。


「将来か……」


先程の会話を思い出す。


(やっぱりお母さんとお父さんの期待に応えて、料理で就職か、専門学校に行くのがいいのかな……)


今度は俯く。


(でも料理は趣味だからな……だからと言って他にやりたいこともないし……)


未来のことを考えてため息が出る。


(そろそろ進路のことをちゃんと考えないと……)


美蘭も高校二年生。進路のことをしっかりと考えようと思った。顔を上げたその時、


「?」


前方の十字路の中心に、黒色の球体のようなものが宙に浮いているのを発見した。


(なんだろう……)


物理法則を無視して空中で浮かんでいる謎の球体のようなものに近づく。


「………」


気になった美蘭はじっと黒色を見つめる。


(触れるのかな……?)


試しに黒色に触れてみる。


「わっ!?」


触れた途端に黒色は大きく広がり、空中に穴が出現した。驚いた美蘭は後ろに少し下がる。


(なに……?これ……)


穴の先は果てしない暗黒が続いている。どこに繋がっているのかまったくわからない。さすがに穴の中に入る勇気はない美蘭は、放っておいて家へ帰ろうとする。


その時、


「!?」


いきなり謎の穴が吸引を始めた。


「うう……!」


(吸い込まれる……!?)


必死にその場に留まろうとする。しかし吸引する力は次第に強まる。


「きゃあ!」


耐えられなくなった美蘭は穴の中に吸い込まれてしまった。美蘭を吸い込んだ謎の穴は縮小し、何事も無かったように消滅した。

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