専ら破廉恥な呪う気持ちよ本物さ
恋愛プロミネンス
「結局そっちが掴んだ情報ってのは何だったんですか?」
「ん? ああ……そう言えばあんまりにも衝撃的な情報が判明して、すっかり共有を忘れていたね」
「センパイの情報に比べたら些細な事だから私もうっかり言い出し忘れちゃいました♪」
「まあ……本当にその通りで、大した情報じゃないよ。君を捜索する時、私だけ病院に戻らせてもらってね。デマを流されたもんだからさ。それで、三嶺水季君も水都姫ちゃんに嘘の情報を教えられていた事と、その水都姫ちゃんは他の女子に混じって君の捜索をしていた事が分かった。ほら、君の情報に比べたら大した事じゃない」
確かに、その情報は揺葉の立ち位置があれば不要……か?
「え、何でそこで二人が?」
「説明し忘れていたね。君が攫われた時、水都姫ちゃんは一人だけ心当たりがあったのかな……で、それで独断専行してた。所が君が女子の群れから逃げ出してたもんだから見当違いになってしまって、後は流れでついていったんじゃないかな。まさかあれだけたくさんの女子が居て見当違いの場所探してるなんて思わないし。女の敵は女だけど、みんな一々誰が敵で味方かなんて覚えちゃいないだろうから」
―――そんな事があったのか。
先生の言い方は歯に衣着せるではないが、意味が変わらないように言い方を変えたような不自然さがある。殆ど揚げ足取りに近い違和感なので追及はしないが、何かあったのだろう。
流れとしては恐らく水季君は嘘の情報を握らされていると知らなくてそれを先生に伝えた感じだと思うが、不自然なのはどうして水都姫が弟にそんな情報を握らせたかだ。独断専行は……気持ちは嬉しい。助けに行こうという気持ちが早ったのだろう。
余裕が無かったのなら彼は何も知らない筈で、嘘の情報を伝えたとすれば一言残すくらいの余裕はあったという事になる。そこだけが唯一気になるが……基本的には確かにどうでもいい。
「気は済んだかい?」
「え、はい。一応…………」
「じゃあ寝るといい。隣町とは言うけど、こんな朝早くから出たんだ。眠いだろ?」
気遣いは無用と言いたいが、睡魔には勝てない。お言葉に甘えて、俺は再び身体を横にした。時刻は午前六時。ここは先生が運転する車の中。揺動に意識を溶かされ、微睡みが強くなっていく。
「今日は何もかも忘れて、思い切り楽しんでしまおう。夏休みまでの日々は地獄だったけれど、それとはおさらばだ。それじゃ―――お休み」
夏休みと呼べそうな期間に入るまでの間、俺は学校に通い続けた。と言っても授業など出来そうもない。
日を追う毎に殺害される男性教師。
発情を抑えきれない女性教師。
一学年から三学年の男子は当たり前のように登校せず、やってくるのは目から血を流した女子と、頭を抱えながら喉から血が出ても叫び続ける女子。全身自傷済みの女子も居たし、耳から血を流す女子も居た。そんな状況であってもお構いなしに俺にアプローチをかける根性は狂気でも執着でもなく、強制を感じた。それは恐らく呪いの効力で、どんな状態にあっても俺を誘惑せずにはいられない。
登校するなり保健室に逃げ込んで代わりに先生に授業してもらうのは窮屈だし、怖かった。ここは唯一の安全地帯だったのに、こう気軽に使ってしまうとその内破られかねない。
先生が狩猟用のトラバサミを持ってきて保健室周辺にバラ撒くという暴挙には驚いたが、お陰様で俺の不安は杞憂に終わった。わざわざ校内放送まで使って危険性を説明した事に効果があったのだろう。俺もゲームでしか見た事がないので、トラバサミにそこまでの威力があるとは思わなかった。足の骨が壊れるって……
『くれぐれも家では、静かに過ごすように』
そうそう。先生からそう言われていたので、夏休みまでの間は極力外出をせずに妹と遊んだ。何故かは分からないが、女子が家に来なくなったのだ。代わりに窓から外を見ると股から血を垂れ流した女子がうろうろすると言う恐怖映像が見られたが、冬癒と遊んでいればまず見ない景色。
妹はあの一件以降、危ない目には遭っていないらしい(彼女達が死んだ事は伏せている)。そこまで感謝される謂れもないがやや過剰に好感度を稼いでしまった様で、遊ぶくらい何てことないといつも付き合わせてしまった。
何の異常もない日常につい気が緩んで遊びに行く事を口走った結果、妹は態度を豹変。今までの恩があるからと連れて行けとせがまれた。
現実的に断るのは困難だったので、実はこの車内には五人居る。
俺、冬癒(睡眠中)、錫花(睡眠中)、湖岸知尋先生、夜枝。
関係ない人物を巻き込むのはどうかという意見もあったが、今まで本当に関係なかったからこそ揺葉の警戒を解けるだろうという意見もあって、思いの他歓迎された。両親は多少渋ったが、先生の存在を知ると態度を一変。女子の特権を使うまでもなく送り出してくれた。
「…………」
錫花のお陰で緊張が解れた。揺葉を騙す事には抵抗感があるものの、そればかり気にし過ぎて身体がどうにかなるという事はない。今はそれをやろうとすると彼女の身体の感触も連動して思い出してしまって恥ずかしくなる。
「そろそろ着きますか、これ?」
「結局起きたんだ」
「まあ……いや、もう大分寝たと思いますよ。二時間くらい? これ以上寝たら牛になりそうなので起きます。お腹空きました」
「あはは。じゃあちょっとコンビニでも寄ろうか。霧里夜枝ちゃんは要る?」
「センパイと一緒に朝食を食べられるまたとないチャンスなので要ります! 出来れば高いお弁当で!」
「……私がお金出すからって強欲だね」
隣町に入っているのは景色を見ていても分かる。地理としては隣接していても実際は違う。他所は他所とは正にその通り、凄く遠出をした気分になっている。道路の作りやコンビニの大きさを見てもそう思う。所詮俺の生まれた町は狭かったのだと。
車が曲がって、駐車場に停車。『くれぐれもカーテンは開けないようにと念を押して、先生はコンビニの中へと入ってしまった。遮光カーテンは寝台と化した後部座席の寝心地を少しでも良くする為と、俺が見えないようにという配慮だ。もし万が一何らかの偶然が合って女子が居たら誘拐されかねない。
「……本人が居ない今だから言えますけど、湖岸先生って悪い男に捕まりそうですよね」
「……どの辺りがそう思うんだ?」
「献身的な所とか、薄幸そうな見た目が狙いやすそうだとか。これは経験則ですけど、自分に自信が無い子はちょっと褒めるだけで落ちたりするんで、そこもちょっと危険です」
「へえ~…………自信が無い、か。そんな事言われると親近感沸いちゃうな。俺も自分の顔に自信なんかないから」
「センパイ、人間は顔だけじゃないですよ。特に先輩は一緒に居る内に魅力に気づくタイプと見ました。私が言うんだから間違いありません! でなきゃ錫花ちゃんも気にしませんよ? 美男美女なんて親戚にたくさん居るみたいですから」
「………………なあ、ずっと気になってたんだが、俺と錫花の最初の出会いって、溺れそうになった所を助けてもらったんだよ。最初は気にしてる暇とかなかったけど、よくよく考えたら偶然にしては出来過ぎてる。じゃあ最初から俺を知ってたのかと言われると多分違うよな。で、さ。お前確か隼人に部屋貸せる人が居るって家を貸したよな」
「貸しましたね」
「アイツが死んだ後も錫花が普通に出入りしてる事から、貸せる人っていうのは錫花を通した水鏡だったりしないか? だってお前と知り合いなんだろ?」
「…………成程成程。つまりセンパイはこう言いたいんだ」
「錫ちゃんを最初に差し向けたのは私だって」
「……消去法でな」
「大正解♡」
夜枝は車内が狭いのをいい事に俺に迫って、徐に唇を奪った。
「私の気持ち、少しは伝わってくれたみたいで良かった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます